アニメ 響け!ユーフォニアム 久美子3年生編を考える。 小説「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章」読書感想文

刊行から1年、アニメ放送開始から5周年、先日、映画「劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~」を再鑑賞したことをきっかけに、武田綾乃作の小説「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章」(以下「最終楽章」)を再読した。

アニメ 響け!ユーフォニアム 久美子3年生編 は劇場版?

アニメ 響け!ユーフォニアム 久美子3年生編 は、前篇後編合わせて文庫本2冊分約750頁の最終楽章を、その凡そ半分の分量、前編第3章、後編第2章、後編第3章の内容を中心に構成された、2時間強の上映時間の映画になると予想した。

最終楽章 あらすじ

3年生に進級した、京都府立北宇治高校 吹奏楽部員 黄前久美子たちを描く最終楽章は、時系列どおりに展開する。
前篇第1章、春、新入部員が揃い、前篇第2章はマーチングイベント「サンライズフェスティバル」まで、前篇第3章は最初のオーディションから府大会出場まで。 つづく後編第1章はお盆休み前後の出来事、後編第2章は2回目のオーディションと関西大会、後編第3章は、秋の全国大会が描れる。

久美子部長の下スタートした新生北宇治吹奏楽部、悲願の全国大会金賞に向けて、ドラムメジャーを担当する高坂麗奈は厳しい指導を行うが、一部の部員は委縮してしまう。コンクールメンバーの選抜は大会毎のオーディションとなったが、顧問の滝の選考結果に疑問を唱える部員が現れる。部長としての仕事に謀殺されるなか、自分の卒業後の進路も決められない。

強豪校から転校し吹奏楽部へ入部した3年生黒江真由は、柔和な性格で周りともすぐに馴染むが、実力はあるのに和を優先してオーディションの辞退を申し出るなど、今ひとつ掴みがたい。

関西大会前のオーディションで、ソロパートの奏者から久美子が外れ、代わって真由が選ばれる。部をまとめるべき自分が部内の不和の種となり、奏者としてのプライドも傷つけられ、更に顧問への不信まで芽生えてしまう。ズタズタになった久美子は親友の麗奈とも衝突してしまう。

全国大会に駒を進めたが、真由ともわかりあえず、2年生の久石奏も真由への批判を止めない。流れのまま臨んだ幹部会議では、幹部内にも亀裂が生まれてしまう。
途方に暮れた久美子は、2学年上のOG、田中あすかを頼る。
漸く自分を見つめ直すことができた久美子は、全部員の前で、顧問への敬意、吹奏楽部への愛、部員への願いを語り、全国大会に向けて部をひとつにまとめあげる。
後編第3章オーディション直前の1週間前の出来事を描いたこの75頁は一気に読ませる。どん底叩き落された久美子と共に沈んだ読者も、きっと部員達と共に笑顔になっている。

結末は予定調和だが、「そしてその先に…結果がついてくれば…うれしい」という温かな眼差しで、最後まで活字を追えるだろう。

「響け! ユーフォニアム」シリーズ

この小説シリーズは、周囲に流されるように部活動を始めた主人公が、心からの上達を願い、努力の価値を知り、仲間達との関わりの中、成長していく姿が描かれている。最終楽章では、遂に栄冠を勝ち取り、新たな未来に向けて歩み出していく。
こう書くと王道の青春モノだが、部内で巻き起こるドラマは他の部員を軸に展開していく。主人公はあくまでも狂言廻しで、群像劇として仕立てられている。

小説第1作「響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ」刊行から2年を待たずにテレビアニメ化された。演奏シーンなどの作画技術が注目されがちなアニメ版だが、写実的な演出で、魅力的な多数のキャラクターをたっぷりと描いたことで、原作の美点を昇華させて、多くのファンを獲得した。

劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~

2年生に進級した久美子たちを描いた、小説「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部 波乱の第二楽章」(以下「第二楽章」)は、テレビアニメではなく、2本のアニメ映画となった。
1本目「映画 リズと青い鳥」は意欲的な作品であったが、絵柄の違いなどもあって、スピンオフ作品だ。
2本目の「劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~」(以下「誓いのフィナーレ」)が、テレビアニメの正統といえる。
第二楽章も前篇後編合わせて文庫本2冊分800頁弱あり、これを事実上1本の続編映画にした結果、エピソードは大幅にカットされ、総集編のような駆け足になった。魅力的なキャラクターが多い「響け! ユーフォニアム」シリーズ、最終楽章のテレビアニメ化の期待が高いのも肯ける。

原作のテーマを汲み取る

前述の通り、最終楽章では、ようやく主人公がドラマの展開の中心となって、悩み続けた、部活のあり方と自分の進路に、答えを出すに至る。
そこに絞り込んでいけば、物語の山場である後編第2章と後編第3章、そして破局に向かって前篇の至る所に散りばめられた仕掛けを拾っていけば、物語は成立する。
それをどう掬い取って構成するかは、作品時間と登場キャラクターの事情によるので、色々な意見があっていい。前編第3章は仕掛けに多くを割いているので、これを活かすのが良いと思う。

映画としてのスパイスを

仕掛けとは異なるが、前編第1章の演奏会ポスターを剥がし捨てに行く場面は、
誓いのフィナーレでは済んでいなかった副部長とドラムメジャーの紹介と同時に、
最終楽章の展開を暗示する。また階段を使った演出効果は「映画 リズと青い鳥」のセルフオマージュとも言える。黄前父と金魚の場面もそうだ。

また、叙述トリックで描かれる前篇のプロローグを、映像で表現するのは難しいと思うが、同工の場面は冒頭に必要だろう。テレビアニメ2期の第1話は、最終話のラストーシーンから始まっている。これによって主人公が過去を振り返る構造であることわかる。アニメの完結編として先行作の構造を踏襲するという趣向は、如何だろうか。

最後に、完結編であればこそ、オールスターキャスト映画化もファンの願いだ。
魔法のチケットで召喚されるあすかと香織以外に登場の必然性はないが、
大胆な改変をしてでも、そこは上手く登場させてくれるものと信じている。
大会の観客は安直なので、練習の合間に差し入れに来てくれると嬉しい限り。

演奏曲を使って

演奏を聴く楽しみが加わったこともアニメの魅力だが、課題曲のソリ(以下「ソリ」)と曲「響け!ユーフォニアム」を、最終楽章では何度も聞かされる。
ソリは、前編3章、練習時の真由と久美子、縣祭りでの麗奈と久美子、後編2章の麗奈と真由。それぞれの奏者の組み合わせが、久美子の心理描写として活きてくる。
後編3章の麗奈と久美子は友情の再確認だが、大吉山とすれば縣祭りと重なる、
全国大会とすれば誓いのフィナーレと類似する、どちらをとるかは好み次第か。
関西大会へ向かうバスのくちラッパも、是非声優陣に再現してほしい。

曲「響け!ユーフォニアム」は、前編3章の真由と久美子のソリの前の場面に出てくる。後編3章の久美子、真由、奏の3人での合奏と対比することで、久美子と真由、真由と奏の和解と、久美子の本心が全部員に伝わったことが示される。

劇場から拍手を送れる日を願って

さて、俄プロデューサーの似非企画、多いに裏切られることを祈って、来るべき日を待ちたいと思う。



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