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『きょうの日はさようなら』読んだ感想

一穂ミチ『きょうの日はさようなら』を読みました。
※下記ネタバレを含む感想があります。

【あらすじ】
明日子と双子の弟・日々人は、歳の近い従姉がいること、彼女と一緒に暮らすことを父に知らされる。
夏休みに面倒ごとが増えて二人ともうんざりだ。けれど、従姉――今日子は、長い眠りから目覚めたばかりの、三十年前の女子高生で…。

【ネタバレなし感想】

17歳の明日子と日々人、そして2人の父親との冷めきった関係が、今日子によって少しずつ緩和していく感じとか、今日子の良くも悪くも女子高生っぽい適当な、軽い感じがすごくいいなと思った。

内容は割と重いが、それを感じさせない軽さがある。
明日子、日々人、今日子の3人の会話は、マックのイートインで隣に座っているその辺の高校生の会話のようで、今日子の現代を受け入れるスピードが早くて面白かった。

後半はかなり泣いた。
前半のあたたかさを残したまま、どんどん寂しくなる展開。寂しいのに寂しくない、ただそこに存在があるだけで頑張れるような。

湿度が高く、静かで苦しいのに、どこか明るさも感じられる独特な雰囲気。
表紙の宮崎夏次系のイラストに惹かれて購入したが、夏に読み返したい1冊になった。


【ここからネタバレを含む感想】







前半の、突然今日子がやってきて、退屈な夏休みに刺激が生まれて、なんだかんだで穏やかな時間も束の間、今日子の家の真実がみえてきたあたり。

明日子は今日子と同性だからこそ気遣える優しさや、日々人の不器用ながらもどうにかならないのかと、今日子のことをちゃんと考えているところが本当に辛かった。

大人ほど自分たちでどうにかできるわけではないけれど、子どもと言うにはできることが多すぎる。

母親の死を経て何かが抜け落ちてしまった毎日が、今日子が来たことで少し先の未来を考えて、少しずつ進むことができるようになった成長記録でもあったと思う。

本編最後にあった

"何が変わろうとも、どんな未来でも、あなたにとってはただのあした。だから私たちはあしたで待っていたらいい。"

という言葉が優しくて寂しくて、またぽっかり穴が空いてしまうような感覚になるが、母親が亡くなったときとは違う種類の、少しの希望を含んだ寂しさだと思った。

今日子のあしたがいつになるのかは分からないけれど、明日子は良い意味で今日子に囚われず自分の人生としっかり向き合う選択を、日々人は今日子に言われたことを胸に、今日子と次に会うときのことを考えながら生きることを選んでいて、どちらも自分の意思で未来に向かっていた。

2人がそう思えたのは、間違いなく今日子が2人と居た時間を大切に想いながら眠ってくれたからだろう。
次に今日子と会うときは、特別な日なんかじゃなくて、ダラダラとゲームをするような、この夏休みの続きなのだろう。

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