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『豆の上で眠る』読んだ感想

湊かなえ『豆の上で眠る』を読みました。

〈あらすじ〉
小学校一年生の時、結衣子(ゆいこ)の二歳上の姉・万佑子(まゆこ)が失踪した。
スーパーに残された帽子、不審な白い車の目撃証言、そして変質者の噂。必死に捜す結衣子たちの前に、二年後、姉を名乗る見知らぬ少女が帰ってきた。
喜ぶ家族の中で、しかし自分だけが、大学生になった今も微かな違和感を抱き続けている。
――お姉ちゃん、あなたは本物なの? 辿り着いた真実に足元から頽れる衝撃の姉妹ミステリー。

〈感想〉※ネタバレ含みます

万佑子が行方不明になって2年後、無事に戻ってきた万佑子への違和感。

結衣子と同様に、うっすらと親族や近所の人たちも、この子は別人なのではないか?と疑うけれど、DNA鑑定の結果では両親の子であることが証明されて、別人だと思うことがタブーになっていく中で、やっぱりこの人は本ものではないと疑う主人公が最後の最後で真実を知り、行き場のない感情に、立ち尽くす様子が酷く辛かった。

万佑子が行方不明だった期間の家族の様子、特に母親の執念が恐ろしい。いや、娘が行方不明なのだから警察に頼りっきりではなく、自分自身も手がかりを掴みたいと思う気持ちは分かるが、わざわざ猫と娘を利用してまで、、、、とゾッとした。仮に犯人の家を特定したとして、そこへ結衣子ひとり行かせるのは危険だとまで頭が回っていない様子から、母が冷静ではいられないことを引き立たせていた。

なっちゃんの存在もかなり邪悪だった。
リーダー気質で頼りになる上級生かと思えば、、。
自分もこの一連の事件に関わっていたいから、興味本位で嘘の証言をしたのだろう。小学校高学年らしいといえばそうかもしれないが、軽々しく首を突っ込むな!と普通にムカついた。ムカつく…。

そして万佑子のいない間、ブランカ(猫)の存在は結衣子にとってどれほど救いだったことだろう。個人的には、作中唯一の理解者というか、なんとなく結衣子を受け止めて、良い距離感で支えてくれていたおばさんから、ブランカの最期について聞かされたとき、最後の最後で、また"結衣子だけが知らなかった"ことがあった事実に、この作品はどこまでもドン底へ突き落としてきやがる…と思った。

自分だけが大事にしている思い出や、自分だけが感じている責任をずっと心の中に閉じ込めて、帰ってきたら万佑子ちゃんは別人だということをタブーにされて、それでも何かおかしいという違和感から抜け出せない中、自分だけが真実を知らなかっただけだった、というのは、どんなに悲しいものか。

なんでも話し合い、支え合うのが家族なのではないのか。本当のことを言うとショックを受けるかと思って言わなかった、というのは、果たして本当の優しさなのか。血の繋がりがあることが本当の家族の証なのだろうか。結衣子が行方不明になる前の万佑子と過ごした記憶は、万佑子にとってはとても些細な出来事だったのだろうか。

結局人は窮地に陥ると自分のことしか考えられないし、家族であっても所詮他人なのだという事実に、頭がおかしくなりそうな1冊だった。

このあとも全員辛さを背負い生きていくことになるだろうが、結衣子は姉のことをどう受け止めていくのだろう。

過去の記憶や思い出だけが本もの?
これから先、長い月日をかけて本ものにしていくの?
結衣子にとって本もののお姉ちゃんは誰?
信用できる人は誰?
本当に、何がどうあったら"本もの"って言えるんだろうか…。

最初から最後までじっとりとした緊張感と違和感。嫌な手汗をかきながら読みました。

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