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元人事×HSP当事者が考えた「やさしいクリティカルシンキング」のすすめ

 いつも周囲の人の顔色を伺って仕事をしている。
 職場でも大きな声の人の言いなりになってしまっていた。怒っている人は苦手だし、そんな人の前で反論なんて絶対無理。
 本当に人とコミニュケーションするのが苦手になってしまった。
 でもそういう生きかたをしていると、自分を失ってしまっている気がする。自分だって好きなこと嫌な事がある。職場をもっとよくしたい。良い仕事をしたいと思っている。それを言葉に出せないなんて悲しすぎる。
 いったいどうすればいいのだろうか。

 HSPの方は、このような悩みをお持ちだと思います。
 私もかつてはそうでした。
 何とかして抜け出そうと試行錯誤を繰り返しました。そこで出会ったのが、「クリティカルシンキング」です。
 クリティカルシンキングを実践して、相手の感情に左右されないコミュニケーションが出来るようになりました。
 仕事において、自分を大事にしながら成果を出せるようになったのです。

 クリティカルシンキングはHSPに親和性の高いスキルです。
 そのHSPの特徴を活かしたクリティカルシンキングを、私は「やさしいクリティカルシンキング」と呼びます。

 今回は、HSPにとって大きな武器になる「やさしいクリティカルシンキング」についてお話ししたいと思います。

 HSPとは「とても敏感な人」の意味です。詳しくはこちらに書いています。

■HSPの大きな武器「クリティカルシンキング」

 「クリティカルシンキング」とは何でしょうか?

 「クリティカル・シンキング( critical thinking)とは、あらゆる物事の問題を特定して、適切に分析することによって最適解に辿り着くための思考方法」(Wikipedia)

 客観的に問題を捉え、論理的に最適解を考える方法です。

 HSPは周囲に感情を揺らされて判断を誤ってしまいがちです。更に結果を自分が悪いと責めてしまいます。
 しかし事の成果は、自身の能力以上に環境の影響が大きいです。一方HSPの方は環境の影響を更に受けやすく、能力を発揮しづらいのです。そして結果を自分の責任と捉えやすいのです。
 だから、HSPの方はコミュニケーションに苦手意識を持ちがちです。
 この苦手意識を克服するツールがクリティカルシンキングです。
 周囲の環境に流されてしまいがちなHSPにとって、クリティカルシンキングはそれを阻む防波堤となり、自信をもって人と対する力になります。
 客観的に問題を捉え、相手に説明出来るので、自信を持つことが出来るのです。

■「やさしいクリティカルシンキング」とは?

 「やさしいクリティカルシンキング」とは何でしょうか?
 良いコミュニケーションの原則は「正しく考えること」です。感情や周囲の空気に流されるコミュニケーションは、自分にとっても相手にとっても良い結果となりません。
 だから正しく考えて、論理立てて主張することが大切です。

 しかし一方で、論理的な正しさのみを前面に出して相手をやり込める手法がまかり通ります。これは実際集団の中では使えません。集団の目的に沿った最適解が出せないばかりか、集団の中でしこりが残ります。
 集団として成果が上がらず、集団の関係も悪くなります。

 クリティカルシンキングで重要なのは、集団の「隠された前提」を見つけることです。これは、周囲の環境に敏感に反応するHSPには得意分野です。 
 HSPは「隠された前提」にいち早く気付くことが出来るのです。
 だからHSPとクリティカルシンキングは親和性があるのです。
 「隠された前提」を踏まえた論理的な説明や議論が出来れば、納得感も増し不毛な言い争いになることもありません。成果も確実に上がることでしょう。
 これが「やさしいクリティカルシンキング」です。

 隠された前提を踏まえることは、忖度するのではありません。自分の意見を変えるということではないのです。相手の持つ前提、思考を考慮に入れれば、最適解は自然に変わるのです。
 やさしいクリティカルシンキングは、周囲に建設的な議論を促します。
 だから、集団としての成果を最速で上げることが出来るのです。

 「やさしいクリティカルシンキング」が実践出来れば、成果が確実にあがります。その人は組織にとって無くてはならない人になるのです。
 是非HSPの大きな武器となる「やさしいクリティカルシンキング」を実践しましょう。

■やさしいクリティカルシンキングの実践

 それでは、やさしいクリティカルシンキングを実践するための5つのポイントを説明します。

①目的は何かを意識する
 常に目的を意識することが大切です。往々にして目的を忘れ、手段ばかりを議論することが多いものです。
 例えば、定例でやっている会議について、周囲からは沢山不満の声が聞こえます。上司からはやることを当然に前に進めるように指示が出ている。だから不満の声を無視して企画を進めてしまいます。
 しかし、会議を開催する目的は何なのかを問い直さない限り、良い内容になる訳はありません。そこで思考を止めてはいけないのです。
 常に「そもそも何が目的?」と問い直すのです。

②前提、置かれた環境に合わせて考える
 やさしいクリティカルシンキングの根本です。その相手、集団の奥に流れている隠れた前提を見つけるのです。

 会議の例で言えば、何故上司は当然会議をやるつもりでいるのか?単に惰性でやっているだけなのか?そうであれば止める提案も出来るでしょう。
 しかしそうではない場合もあります。その会社にとって会議をやる事が、仕事をやっている、考えているアピールだということもあり得ます。
 その会社のトップの主義なのかもしれません。だから会議がなくならないのです。

 会議の中止を提案すれば大きな抵抗に遭うでしょう。
 「会議は無意味」と正面突破することもありえますが、会社のトップと前面対決して果たして上手くいくのでしょうか。
 そんな時、そもそもの目的に立ち返って考えてみる必要があります。
 「成果をあげる」という目的が組織で共有できるのであれば、会議という箱を維持しながらその内容を見直す選択肢だってありえるのです。
 その方が最速で成果を上げることにつながるかもしれません。

③イシュー(「問い」)を踏まえた上で「考える枠組み」を考える
 物事を考える時に、「問い」(イシュー)が一番重要です。良い問いを考えられた時点で、良い答えが導き出せることが確約されたと言えます。
 だから問いを考えましょう。先程の①、②を意識した上で「何が問題なのか?」を考えるのです。
 目の前に起こっている問題は、実は本当の問いでない可能性が高い。もっと深いところに「問い」が隠れているのです。
 「問い」を設定できたら、次にその問いに答える論理の枠組みを考えます。

 問いに答えるためには、どのような説明が適切か?どんな客観データが必要か?どの順番で説明するが効果的かを考えます。ここでも説明する集団特有の前提を踏まえるのです。
 集団の前提にフォーカスした枠組みであれば、こちらの説明が相手にスムースに入っていき、納得感が得られるでしょう。

④正しく論理を展開する(演繹法、帰納法)
 枠組みに基づき具体的な説明をつくります。そして論理の展開におかしいところがないかを考えます。
 論理の展開には、演繹法、帰納法があります。これを意識しなければ、必ず論理の抜けやモレが出てしまいます。
 帰納法であれば、具体的事例をどれだけ提示出来るかが重要です。例外ケースではなく、多くの現場で起こっている事象であること。それを臨場感ある説明が出来るかどうかがカギになるでしょう。
 演繹法であれば、提示するルールや一般論が集団の中で通用するものかに注意します。もしそのルールや一般論に疑問を挟まれれば、たちまち論理は破綻します。集団の前提からみて、利用するルールや一般論を注意深く選ぶ必要があります。

⑤常に問い続ける
 最後は「問い続ける」です。
 設定した問い、説明の枠組み、論理の展開に抜けやモレがないかどうかを常にチェックします。その中で、枠組みや問い自体を変更することもあります。
 そして説明する相手、集団も常に変化しています。だから前提も変化しているのです。
 前提の変化を忘れ、単に現状の論理の正しさだけを追い求めると、全く相手に響かない説明になります。
 「理屈は正しいかもしれないが、現場ではそうならない」と言われるのは、何かその組織、現場の前提を忘れているのです。
 だから常に問い続けないといけないのです。

■気をつけること

 やさしいクリティカルシンキングを実践する際に、注意する点二つをお話します。

 一つ目は正しい、間違っているを議論しないことです。
 クリティカルシンキングの目的は、正しい、間違っているを議論することではなく、問題に対する最適解を探すことです。
 つい何が正しい、何が正しくないなど自身の主義主張をぶつけあいがちですが、それは不毛です。
 それよりも、今の状況で何が最適解かを議論することが重要です。そこに自身の正義は関係ないのです。

 もう一つは相手の感情(特に怒りの感情)に影響されないことです。相手の感情に影響されて論理がねじ曲がってしまうことは、HSPにはよくあることです。
 当然、論理の抜けモレが出てきます。説明を受けても人は納得しません。
 冷静に論理の展開を考えましょう。客観的なデータと比較して矛盾はないか?何かに引っ張られていないか?相手から論理の矛盾を指摘された際に考えてみましょう。
 それに気付けば即修正します。こだわりは必要ありません。
 最適解を探すためには人からの指摘は重要なのです。説明し、指摘されて修正する。これを繰り返すことで、あなたの論理は磨かれていくでしょう。

■まとめ

 今回は、HSPにとって大きな武器となる「やさしいクリティカルシンキング」についてお話ししました。
 HSPは、環境に敏感に反応しやすく左右されやすい。そんな気質のために周囲からも上手く利用されてしまうこともあると思います。
 そういったHSPの皆さんには、論理的な説明というスキルが大きな武器となります。周囲からの影響を防御する盾になるのです。
 また、集団や環境が持っている暗黙の前提に気付くことで、論理に説得力をが生まれます。HSPの得意分野です。
 表面的な論理を振り回す人を凌駕することが出来るのです。

 周囲を大切にし、更に自分を大切にするための武器、やさしいクリティカルシンキングを是非身につけて実践してもらえれば嬉しいです。

【参考文献】
「MBA クリティカルシンキング 改訂3版」 グロービス経営大学院 著

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