お金と不安、そして幸福との微妙な関係

 この程度の貯蓄額で将来生活出来るのか?子どもの学費は大丈夫か?老後資金は?お金に関する悩みは増すばかりです。
 お金を稼ぐために仕事でストレスを抱え、そのストレスを解消するためにお金を使ってしまうというループにもはまりがちです。
 また、自分の好きなことだけやってお金が稼げる訳ではない。仕事のためなら嫌なことも我慢しなければいけないという呪縛があります。
 この呪縛の一番の理由は「不安」です。お金は不安の象徴なのです。
 不安から来る防衛本能が、人をお金を貯める、お金を使って物を購入する衝動に駆り立てるのです。
 つまりお金を稼ぐということは、不安から逃れたい衝動ともいえます。

 この不安を生む背景として大きいのは、会社の拡大・成長優先の考え方です。昨日より今日、今日より明日成長しなければいけないという考え方です。
 会社からは、競争に勝たなければ駄目だ、負け組、落伍者だというメッセージが強烈に発せられています。
 この会社の危機意識が従業員に共有され、それが個人の不安につながります。会社が生き残れなければ、自分も生き残れない。更に会社の中でも競争に勝ち残らないと生きていけないという不安です。
 自分は落ちこぼれたくない。努力しているのに報われない。周囲の人が気になってしまいます。
 努力すれば生き残れる、勝ち残れない人は努力が足りないという社会の圧力は未だに大きいのです。つまり、成果を出して勝ち残り、お金を稼いでナンボだという考え方がまだ主流だということです。

 以前は会社の成長=個人の生活の満足(特に物的満足)であり、経済の成長で好循環が起こってきました。しかし、低成長の現代はそうはいかなくなりました。上昇のスパイラルをずっと続けられません。
 戦後の貧しい時代を経て、高度成長期に企業も個人も金銭的・物的満足をひたすら追い求めてきました。しかし成長が鈍化した現代にその時代の感覚を引きずっていることは、デメリットを広げていると言えないでしょうか。

 「お金=幸せ」と考えている人ばかりではありません。
 私が好きな本に、「減速して生きる ダウンシフターズ:高坂 勝 著」があります。

 会社を辞め、小さな居酒屋を開業した著者が、最寄り駅10分強という不便な店舗で夜のみ、週休2日、年間休日125日で営業しました。当然少ない収入となる代わりに、時間的な自由と精神的に豊かな暮らしを得られたというお話です。
 この本で私が学ぶのは、お金だけではない豊かな暮らしという「ダウンシフト」という考え方ではなく、著者が「本当に自分にとって大切なものは何か?」を考え抜いたということです。考え抜いた結論、つまり自分の価値観が「ダウンシフト」であった。そして、自分の価値観に基づき愚直に、真っ直ぐに行動した結果、精神的に豊かな暮らしにつながったことにあります。
 自分の価値観を考え抜くこと。その大切さを再認識させられます。

 「自分にとってお金はどういう存在か?」「競争に打ち勝ち、お金を得ることで本当に自分の不安は解消出来るのか?」「自分にとって一番大切なものは何か?」
 この先行き不透明な今こそ、自分の価値観を問うこれらの問いに向き合ってみる必要があるようです。

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