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博士課程にもなって英会話が怖いという愚痴[2021/4/18]


・最近ようやくDMM英会話を始めた。始めるだけで1年かかった。


・僕はおそらく「言葉が通じない」「伝える言葉を持たない」ことに、人よりも強く恐怖を感じているのだと思う。それはほとんど、根源的、トラウマ的ともいえる恐怖である。

・読書猿『独学大全』によれば、世界初の同時通訳者ともいわれるハンガリー人、ロンブ・カトーがあらわした語学学習の分数式というものがあって、

(費やした時間+モチベーション)/抑制・阻害=成果

だそうだ。日露翻訳者の米原万里は分母の「抑制・阻害」を「羞恥心」と訳したそうだが、僕にとっては「羞恥」どころではないのだと思う。

・言語は、言語こそが、身体表面だ。僕は日本語でできている。僕にとって日本語を奪われることは、言ってみれば服を脱がされるようなものなのだが、それは「全裸で恥ずかしい」を超えて「急所を守る手立てがない」恐怖なのだ。


・なんか、スベることへの恐怖にも近い気がするな。英語が喋れないのに英語を喋ろうとしてる時間って、ずっとスベってる。「スベったとき用の受け身」を持たないまま舞台に上がって今まさにスベり続けている息苦しさ。「おい、客の声聞こえないけど全員死んだか?」を英語で言えない。「ブンデスリーガに烈海王が出場したときのあるあるを教えてください」というお題で「サッカー……であってる……?なんかバキの人だっけ……?」という漠然とした知識のまま、大喜利どころか「一人ごっつ」をやらされている感覚。


・えー…… 〈レッドカード? わたしは一向にかまわんッッ〉


・しーーーーーーーーん


・「わたしは一向にかまわんッッ」が烈海王の台詞かどうか、というかバキシリーズの台詞かどうかすら自信がないまま、まだこのお題が続くのよ。


・この比喩もあってるのかわからなくなってきたな。


・「海外の人と言葉が通じて嬉しい」よりも「本当に言いたいことのこれっぽっちも言えずにつらい」が勝る。そりゃ英語の運用能力が日本語に並ぶようになり、「一人ごっつ」みたいな語彙まで獲得するようになれば「本当に言いたいことのこれっぽっちも言えずにつらい」は原理的になくなるけど、それまでの道のりがなんて果てしないんだよ。


・よく「その言語話者の恋人をつくると喋れるようになる」とか言われる。その背景の恋愛主義はさておき、そして実際の効用もさておき、なんで言葉がわかんないのに付き合おうと思うんだろう。顔?

・やや弱い主張のパターンとして「海外に推しを作れ」とかいうけど、いや言葉がわかんないのに好きにならないよ、僕は。僕の好きな月ノ美兎も卯月コウも名取さなも、はっきり言ってフィクショナルキャラクタの見た目それ自体は平々凡々というか、その発する言葉に魅力を感じ、「好き」フィルターがかかって初めて輝きだすものであって、やっぱり言語がその身体表面なんだと思う。


・絶対にコミュニケーションに齟齬があってほしくないから、Where are you from?レベルの教材から始めている。なのに、自分が何をどう聞き間違えたのか知らないけど、「あなたのお名前は?」と聞かれて「I'm fine.」と答えてしまったようで僕はもう挫けかけている。ご冗談でしょう、ファインさん。

・本当はやめたい。ほんやくこんにゃくプリーズ。ソーリー。アイムソーリー。アイムストゥーピッド。



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