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DC1学振申請書の書き方・コツ・対策(社会科学の補欠繰上合格)


はじめに

・去年は書けなかったのだが、学振のいわゆる「合格体験記」的なものを書いておきたい。

・学振は、読んでコメントをくれる学振ホルダーとのつながりとか、そもそもチャレンジする文化が研究室にあるかどうかとか、そういうものが相当大事である(DC1特別研究員採用者一覧の受入研究機関を見よ)。

・私は幸運にも東京大学社会学研究室に籍を置き、学振申請書検討会が開催される慣習があり、諸先輩方から貴重なコメントを貰えたから良かった。しかし、そういう共同体へのアクセスがはなから断たれているがゆえに対策ないし応募できない、という学術的環境は存在する。そういう中心‐周縁の関係性をそのままにしておくことは健全ではない。

・もちろん、ネット上でちょろっとコツが引っかかるというだけでは、そうした環境が健全化されたとは全くいえないし、結局「中心」からの物言いだと言われればそれまでだが、少しでも改善に向かえばありがたい。

・私のような貧乏学生にとって、学振が通るかどうかは食っていけるかどうかが賭けられた大問題である。どうかそういう人たちの力になりたい、という気持ちで書いた。


補欠繰上合格――人事を尽くして天命を待つ

・私は、2019年度のDC1(社会科学)に補欠繰上合格した。

・つまり、書類審査で落ちて面接に引っかかり、その後面接でも落ちたので、来年からマジで食っていけないかもしれないと思っていたら、2月末にようやく合格が決まった。

・補欠繰上合格の連絡が来る前の晩、「そろそろ通知が来る頃だ」と思って近所の神社にお参りしたら、そこに住み着いている野良猫が珍しく足にすり寄ってきた。これは吉兆の知らせに違いない、と思っていたら通った。まあオカルトだが、補欠繰上合格ともなればそういうレベルの話だと思う。

・自分が見てきた限り、本当に本当に本当に優秀な先輩研究者でもDC1に落ちることはある(DC2ではさすがに運の要素が均される感覚がある)。人事を尽くしたら天命を待つほかない。


「小手先」にこだわる

・補欠繰上合格者が書くわけなので、超優秀若手研究者の超優秀申請書を見せる、という記事ではない。というか実際の申請書の全体は、恥ずかしいので公開しない(どうしても読みたい方は、連絡をくれればファイル送ります)。

・要するに、「こういうことをすれば、運が良ければ通るライン上まで到達できる」という小手先の工夫レベルの話が多くなる。

・が、研究上のアドバイスはそれこそ先生や先輩にもらえばいいのであって、「書類」を書くためのこういう「小手先」こそが共有されていない知なのではないか、とも思うのである。


「書類」として仕上がっていること

・素晴らしい「研究」の能力ももちろん必要だが、「書類」として美しく、しっかりしていることがかなり大事だ。小賢しいと思うだろうか。しかし、「仕事」として研究をやっていくならば……というかホワイトカラー労働者としてやっていくならば、絶対に必要になる能力だ。

・太字、下線、フォント変更、字のぶら下げといった読みやすくなる工夫はまず必要。

・字や行間を小さくして内容を無理やり詰め込んではいけない。言葉を尽くしたい気持ちはわかるが、あの分量で足りないのならば、まだ研究内容の骨子が整理されていない証でもある。あなたの研究は絶対にもっとすっきりと説明できる。枝葉は端折って太い幹だけどっしりと立てるべきだ。

・それから、「訊かれたことに答える」こと。問題点、解決方策、研究目的が訊かれているのなら、問題点、解決方策、研究目的を、「ここに書いてあるな」と一読してわかるように、書く。

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・「所属研究室の研究との関連」も、訊かれている以上は答えたほうがいいと私は思う。文系の場合、たいていは「共同研究ではなく申請者本人により独立して分析される予定である」と一言書けばよい。


分野外に伝わるように書く

・それぞれの研究領域で事情は違うだろうが、社会学の場合、申請書は社会学が専門の研究者に読んでもらえるとは限らない。令和3年度採用者募集の場合、「書面審査セット」は①社会学関連②社会福祉学関連③家政学および生活科学関連④観光学関連⑤ジェンダー関連で、ここから構成された6名の審査員が申請書を読む。ということは、社会学が専門の研究者は半分以下の可能性がある。その先生も、自分と近い研究領域を扱っていることは稀。

・だからとにかくわかりやすく書く。マニアックな話をしない。シンプルに価値を伝える。「こんなに重要な問題があるのに、先行研究では十分な解かれ方がされていない。しかし、私が思いついたこの解決方策なら解ける」という、研究者なら誰が読んでも響くこの論理構成を崩さない。

・すぐ近くの研究仲間に読んでもらうだけでなく、できればディシプリンの異なる人にも読んでもらいたい(自分はしなかった。だから面接行きだったのかもしれない)。


ストーリーを紡ぐように

・わかりやすく書くためには、ストーリーを紡ぐように書いたほうがいい(論文も同じだと思うが、それを先鋭化させる必要がある)。

・申請者のこれまでの研究には〇〇という限界があった。この課題は先行研究とも共通しているものだというのが、これからの研究の着想に至った経緯である。この問題は××という方策で解決できる。ということは、研究方法はABCを採ることになり、研究内容もそれに沿ってABCに分かれる……という1本の分かりやすい論理構成で書く。

・さらにABCの関係を図にすると分かりやすいが、自分はしなかったし、できなかった(だから面接行きだったのかもしれない)。

・年次計画もABCで整理すると美しい。なんなら、これまでの研究の問題点からABCで整理できればいうことはない。


「研究の特色・独創的な点」の書き方

①これまでの先行研究等があれば、それらと比較して、本研究の特色、着眼点、独創的な点
②国内外の関連する研究の中での当該研究の位置づけ、意義
③本研究が完成したとき予想されるインパクト及び将来の見通し

の3つをどう区別しながら書くか、というのは人によって見解が分かれる。

・自分の場合は、

①最も中心的にかかわる研究領域でのアピールポイント(自分ならセクシュアリティ論、フェミニズム)
②二次的にかかわる領域へのインプリケーション(自分なら社会調査方法論、メディア論など)
③社会的意義

というかたちで書こうとした。

・が、いま読み返すと、

①いっちばん分かりやすい特色
②二次的にかかわる領域へのインプリケーション
③最も中心的にかかわる研究領域でのアピールポイントと、社会的意義

というかたちで書いていた。まあ、何か区別があるように書ければそれでいいのだと思う。


年次計画はおそらく意外と大事

・年次計画は、「これまでの研究」「これからの研究計画」欄に比べて軽視されがちな気がするけど、実は重要ではないかと思っている。

・学振の評価は、

①申請書から推量される研究者としての能力、将来性
②研究実績
③研究計画
④総合評価

の4項目で点数がつけられる。ちなみにM2のときはC判定(下位50%)を食らった。DC1合格はM3のとき。

・まあそれぞれどういう細かい採点基準があるのか知らないが、「将来性」とは別に「研究計画」が設けられてるのがおそらくミソ。「これからの研究計画」ももちろん③研究計画にかかわるが、年次計画が③に占める容量は意外と大きいのではないか。ここを美しく書くために労力を割くのは多分コスパがいい。

・自分の場合、先輩の真似をしてガントチャートを載せた。これは大正解だったと思う。

・それから、どこの学会で報告し、どこの学会誌に掲載してもらいたいのか書けば、自分の研究領域が一発でわかってもらえるという機能もある。

・しゃかりきに頑張るぞ、という計画を立てる必要はおそらくない。むしろ「計画の現実味」みたいな採点基準もあると想像されるので、無謀な計画を立てないほうがいい。

・自分の申請書を見返したところ、1年目に2本報告1本投稿、2年目・3年目は1本報告1本投稿の計画で書いていた。もうちょっと多くてもいいんじゃない? とも今は思う。


研究成果

・業績の数は、DC1においてはあんまり重みがないのでは、と噂されている。自分も、卒論と社会調査実習報告書と、研究室の卒論賞しかなかった。


研究者を志望する動機、目指す研究者像、自己の長所等

・あんまり読まれていないんじゃないかという説はある。①~④の審査基準のどこに含まれるのかもよくわからないし。

・が、書き方によっては、研究内容や研究業績をもう一度アピールする場になる。最後に、これまで書いてきたことを思い出してもらいながら、読後感よく締めたい。

・「こういう研究内容になったのはこういう研究者になりたかったからです」「こういう研究業績からわかるように調査経験が豊富なのでこれからの研究も現実味があります」といった書き方ができると思う。


面接について

・先の話になるが、面接免除で一発合格できないと、11月末~12月頭頃の面接審査に回される。

・ちなみに、修士論文提出期間初日と面接日が被った。本当に忙しかった。

・パワーポイントによる4分間の研究説明ののち、質疑応答が6分間。たった10分間で今後の運命が大きく変わる。

・質問内容から、「あ、この先生はセクシュアリティ系の研究をしている方だな」と思う審査員がいた(名前がわからなくて申し訳ない)。補欠繰上合格に引っかかったのはそのおかげだったのかもしれない(そもそもその先生に面接で落とされているわけだが)

・「伝わるデザイン」というサイトを見てスライドを作った。本当におすすめ。


最後に

・学振は、落とされたときは、こんなものは「宝くじ」だと開き直ったほうがいい。しかし合格すれば、それはすべてあなたの努力の成果である。

・補欠繰上合格者という微妙な立ち位置からのエールです。



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