テニス部顧問の体罰と法的責任(その1)

こんにちは。弁護士の紙尾浩道です。

今回は、テニス部の顧問の先生が、体罰を加えてきたらどうなるかを見ていきたいと思います。

顧問の先生が体罰を加えてきた場合、①刑事責任、②民事責任、③学校に対する責任の3つの責任が生じますが、今回は①刑事責任を見てみます。

刑事事件とは、国が、とある人の財産や自由に制限を加える「刑罰」を与えることを目的とする手続です。

なぜそんなことが必要かと言えば、ほかのだれかの利益や、社会全体の利益(これらを「法益」といいます)を守るために、してはいけないことを定めることが、社会全体のためになるからです(それ以外にも深遠な議論があるのですが、ここは深入りしません)。

刑罰を受ける側からすると、「いやだ」と言っても、強制的に財産や自由を奪われる、国家からの人権制限ですから、あらかじめどんなことをすると、どんな刑罰が待っているということが定めてあります(罪刑法定主義といいます。)

以上から分かる通り、「体罰」で行った行為が、「刑罰法規」上に定めのあるものかを探すことが重要です。時々、道義的に悪であるということのみで、警察に訴えて欲しいとお願いされますが、警察が事件として取り扱って本格的に捜査をしてくれるかは、刑罰法規該当の可能性があるかどうかによるのです。

「体罰」で多いのは、手や物で体をたたくという行為だと思われますが、これは刑罰法規に該当するのでしょうか。

結論として上記の行為は、暴行罪(刑法208条)に該当することが多いと思います。

「暴行」とは、「不法な有形力の行使」をいうとされているので、手や物で相手の体をたたく行為は、まさに「不法な有形力の行使」に該当するのです。

ちなみに、その暴行によって、被害者にケガを生じた場合には、傷害罪(刑法204条)に該当します。

「傷害」とは、人の「生理的機能を害すること」とされているので、擦り傷、切り傷、打撲等はもちろん、PTSDなどの症状を生じさせることもこれに該当する場合があります(それほど多い事例とは言えませんが)。

これらの刑罰法規に該当する行為があったかどうかを捜査するのは、主に警察であり、その後、検察官によって、当該事案が刑罰をもって臨むのが相当だと判断されれば、刑事裁判が行われるという流れです。

以上、体罰について、①刑事責任の観点からお話しをしました。

次回は、②民事責任のことを考えてみます。

記事をお読みいただきありがとうございます。弁護士は縁遠い存在と思われないよう、今後も地道に活動をしようと思いますので、ご支援よろしくお願いします。