文学フリマ大阪と天満橋OMMビルと『fallout4』とガンナーとソルニット『ウォークス──歩くことの精神史』と作品と

 本日、大阪天満橋OMMビル2階にて文学フリマ大阪。ブースはA-7。10時から設営、16時40分ごろ撤収。13時までほぼエスカレーター側の喫煙所脇にあるベンチで読書。レベッカ・ソルニット『ウォークス──歩くことの精神史』(左右社)を約ひと月かけて読み終える。13時から本格的にブース入り。15時前にフライヤーの在庫が切れかけ、地下のコンビニへコピーを取りに行く。16時過ぎごろ、私の判断の誤りにより、店番シフトが終わったはずの同人に迷惑をかける。撤収準備、撤収。どこにも寄らずに帰り、本日2度目の食事。寝る。0時にふたたび起きる。
 ちなみにガンナーとは32号に載っている拙作「呪われて死ね」に出てくることでおなじみの『fallout4』での敵勢力のひとつで、おもに荒廃した高速道路の高架上に陣地を構えていることが多いわけです。

 ソルニット『ウォークス──歩くことの精神史』についてはかねてより読んでみたいと思っていたが、読んでみてとてもよかった。遡れば古代ギリシアの逍遥学派より、「歩く」ことは思索と結びつけられていた。そしてこの「歩く」ことと思索の結びつきといえば18世紀フランスのルソーや19世紀デンマークのキェルケゴールが哲学思想界では著名だろうか。文学では18世紀イギリスのロマン派詩人ワーズワースのすさまじい健脚ぶりが記されている。「歩く」文学といえばもちろんジョイスの『ユリシーズ』は外せないし、同時代にはウルフも歩いて文房具を買いに行くという短篇をものしていたらしいが、いつか読んでみたい。すくなくとも先日読んだ短篇集には入っていなかったはず。この本には書かれていなかったが、パク・テウォン『小説家仇甫氏の一日』や、日本文学だと武田泰淳『目まいのする散歩』もそうだろう。あるいは後藤明生『挟み撃ち』や向井豊昭『BARABARA』も含まれるかもしれない。梶井基次郎もひたすら歩いたし、なにより松尾芭蕉を忘れてはならない。日本においても「歩く」ことは文学作品と密接に結びついている。僭越ながら私もよく主人公に歩かせている自覚がある。『白鴉』デビューの「夜明けの岸辺」からして岸辺へ蟹を捨てに「歩く」し、「冬」は歩いて下校する。「蟹蠢」はもっとも歩いているだろう。ひたすらオートバイを書きたかった「アゴアク」ですら「歩く」場面を几帳面に出している。そんな中で「雨傘の日」は変な作品だなと思ったが、これはまた別の話。歩いていないこともないが、歩いて向かった停留所からバスに乗り、みずからの錯誤によって傘を取り違えたまま降りてしまい、雨が降りだす。壊れているのか、傘はまったくひらかない。まさかの完全なるネタバレ。ある意味、歩こうとして歩けなくなる作品とも言えるか。え、まるでベケット、とはもちろん言い過ぎである。またこういうのが書ければなと思った。
 ここまでいくと『パサージュ論』やフラヌールでおなじみのベンヤミンがなかなか出てこないなと思っていたら、わりと後半に出てきた。そして次章には「歩く」ことにおける男女格差が語られ、とくに昼夜問わず女性がひとりで「歩く」ことの困難さが描かれる。かつてのようにひとりで道を歩いているだけで娼婦かと思われることは……場所によってはあるか(いまは知らないけど、かつての泉の広場とか)。ともかく一般的にはそんなにはないということになっているが、たまにはやはり殺されたりしている。殺人までには至らなくても性的なまなざしには常に曝されているだろう。
 現代において、「歩く」ことはさまざまな姿を持つ。ウォーキングマシーンの醸し出すイロニーは感動的ですらあるし、資本主義下において「歩く」ことのアトラクション化が進み、ホームレスなど「歩く」ことの障害となるノイズは排除され、ラスベガスでは突き抜けた俗悪さが「歩く」人を待ち構えている。これからの人類は「歩く」ことをどのように発展させていくだろうか。そして文学作品は。
 「歩く」という行為を中心に文学作品を読み解いていくのもまた一興かもしれない。

 『ウォークス』を読み終えたのちは北村紗衣『批評の教室──チョウのように読み、ハチのように書く』(ちくま新書)を読みはじめた。正確に言うと並行して読むつもりが『ウォークス』に集中してしまっていた。2冊とも併読で済ますにはもったいなさすぎる。という言い訳。

 ようやく「略歴と作品」各作品の「詳細」ページからその作品へ飛べるリンクをつけました。文中の自作に貼っているリンクから各作品の「詳細」ページへ飛べるようにしてあります。よろしければお楽しみください。

  やはり3時間はかかるな、ブログ。


さいきん読み終えた本
レベッカ・ソルニット『ウォークス──歩くことの精神史』(左右社)

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