白鴉例会と阪元裕吾監督と文章うまくなりたい病と『バービー』と実存主義と34号の予定と

 暑さのあまり、『ドラクエ10』のくっだらないクエストにうんざりしきった腹いせに何度目かにはじめた『スカイリム』で破壊魔法使いプレイを楽しんでいたら、今月のブログがまったく書かれていなかった。これでは先月のうちに3人にまで減った読者が全滅してしまう。それはいけない。なんとかせめて5人に戻さねばならない。

 8月26日、白鴉例会。3作。お馴染みの「勝手につづきを考える」をやったら、ふたつ目の案がまんま阪元裕吾監督の映画作品のようであった(というか明確に『黄龍の村』)。別の同人が直前にやったのとくらべて展開のスケールがちいさくて、われながら残念であった。なんにしろやたら人を殺させたがる私であった。阪元裕吾監督の映画は人が拉致られる場面が抜群に怖うまいので、これを読んだみんなはぜひ参考にしよう。
 終了後、焼き鳥屋。ビール2杯。帰り、OBのKさんの近況を知る。この日、じつはW田さんことH野さんの近況も偶然知ったのであった。

 今月あったことといえば、『三田文學』の同人誌評に拙作「バケモン」が取りあげられる。達意の作品です。達意というのはわかりやすいということらしい。こう見えて私、わかりやすいのも書けるんですよ。私の作品が『三田文學』に取りあげられるのはおそらく「アゴアク」以来ではないだろうか
 ふと、私の作品は異性同士がふたりで飯食ってたら気まずくなる展開がよく出るな、と思ったら3作だけでしかも1作はいま書いてるやつだった、とか考えていたら、「アゴアク」は異性同士だけど気まずくはなってないな、ときて、いや、同性同士でも食ってるな、となり、食ってない作品て蟹の一連のやつと「雨傘の日」だけではないだろうか、ああ、主人公がひとり相撲取る作品だな、と帰結した

 文章うまくなりたいので、文章めちゃうまと噂の井戸川射子氏の本を2冊読んだ。たしかにうまいな、と思ったが、好みかといえばそうでもなかった。たぶん私の求めるうまさではないということなのだろう。私はもっとこう、トーマス・ベルンハルトとかロレンス・スターンとかそういう系譜にいたい。
 先月のブログで触れた、岡和田晃氏の「忙しい人のための文学賞、これは押さえろ」シリーズに入っていたので高橋弘希『指の骨』(新潮文庫)も読んだ。私が戦争を書くとしたらこっち方面ではないなと思った。やはりシモンかな。
 石沢麻衣『貝に続く場所にて』が新刊で入手不可能になっていて驚いた。

 世間で話題の『バービー』ですが、ちなみに私自身はネタバレ上等なので盛大にネタバレしますけども、いろいろと感想などを見たり聞いたりしているうち、フェミニズムがベースにあるのは前提として、人間の「実存」についての映画であったと確信するにいたった。バービーランドが人間の現実世界の鏡像となっており、人間社会での男性(ケン)と女性(バービー)との関係が正反対で、バービーランドでは、多種多様な職業を得ることのできるバービーと違って、ケンは、画一的な、「波辺の人」でしかなく、バービーの添え物でしかない。バービーの中でも何物でもない「定番バービー」とケンが人間界へ赴き、バービーはバービーランドとはまるで違う現実と、自分の存在がむしろ女性の立場向上を何十年も遅らせてしまったのだと言い放たれ、傷ついてしまう。一方で、ケンは男性がなにもしなくても尊敬され、崇め奉られる、はるかに優位な存在であることに感動し、人間界における男性性について勉強をはじめる。先にバービーランドへ戻ったケンはほかのケンたちに人間界で見聞きしてきたことを伝え、それによってケンたちは自信をつけ、権威ある男性としてバービーを従える存在へと成り代わり、バービーランドをケンダムへと変えてしまうことを企てる。そしてそのための総選挙を行なおうということになるのだが…。という展開になるわけだが、ここまでで観客は作品内で語られる表層的なメッセージだけでなく、その裏に潜められたメッセージや皮肉も注意深く読み取ろうとしていなければならず、見た目の楽しさに浮かれているとわからない部分も多くあるだろう。それほどに疲れる作品ではある。
 たとえば冒頭の『2001年宇宙の旅』パロディなどは、もともとが骨を武器にした猿が人間へと進化する、つまり戦争を契機に進化を遂げるという皮肉が込められているわけだが、それを踏まえたうえで今作の冒頭を思い返したとき、なんという底意地の悪い冒頭だろうかとぞくぞくする(ここでそういう作品であると親切に宣言してくれているのだ)。最高。この作品は男性の男性性を批判しているのは誰にでもわかるが、その批判は女性へも向けられているのであり、全方位へ向けて皮肉の礫を投げつけている(私もそういう作品を書きたいものだ)。ようするにグレタ・ガーウィグは直接罵倒しないトーマス・ベルンハルトだ(何言ってるかよくわからない)。
 その上で、この作品は言うのだ。バービーはバービーである(だからこの作品の主人公バービーは何者でもない「定番」でなければならない)。ケンはケンである。何者でもなく、個人は個人なのだ。個人として、孤独に生きろと(実際、アランは孤独だ)。
 エンドロールでこれまでの歴代バービーが出てきたりするので、バービー人形好きな人にはもちろんお勧めではないだろうか。私もかつてジェニー人形欲しかった時期があったと記憶しているが、あれはマテル社承認の和製バービーの名称権が切れたとかでジェニーになったらしいですね。

 5月にきていた劇団タルオルム『風の声』済州島/釜山ツアー公演サポーターの返礼品、『大阪環状線』『4.23の風』『一人芝居チマチョゴリ』のDVDをようやく観た。前2作が『白鴉』33号に掲載された拙作「うまれるところ」でも触れた阪神教育闘争を扱ったものなので、どういうふうに描いているのだろうかとかいろいろ気にしながら観た。タイムスリップかー、とか、金太一こんな感じに描写するんやとか勉強になった。タイムスリップはたぶん真似しないな。『チマチョゴリ』は演者である姜河那氏がさすがの技量であることはもちろん、母親の物まねが、ああ、あの人はきっとこんな感じだろうなとよく知らないくせにわかったふうになって面白かった。声のトーンとか。

 ところで『白鴉』34号ですが、1月発行はやめて、5月か6月に発行することになりました。たぶん5月ですが、万が一6月になったらと思い、こう書いてます。たぶんこれからは年一になると思います。文フリも大阪のみ出店にすると思います。どうぞよろしくお願いします。
 ちなみに9月10日の文学フリマ大阪に参加します。白鴉ブースはC-37。よろしければどうぞお越しください。


さいきん読み終えた本
マーティン・マクドナー『ウィー・トーマス』(PARCO)
マーティン・マクドナー『ピローマン』(PARCO)
高橋弘希『指の骨』(新潮文庫)
井戸川射子『この世の喜びよ』(講談社)
井戸川射子『ここはとても速い川』(講談社文庫)

さいきん観た映画
『バービー』(グレタ・ガーウィグ)MOVIXあまがさき

さいきんの舞台観賞
劇団タルオルム『大阪環状線』DVD観賞
劇団タルオルム『4・24の風』DVD観賞
劇団タルオルム『一人芝居 チマチョゴリ』DVD観賞


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