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経営でいちばん大事な「現預金」の話

緊急事態宣言が出ました。一応、5月6日までとなっていますが、新型コロナウイルスの感染拡大がどこまで続くのか予想がつきません。緊急事態宣言が延長される可能性は高いとみています。

医学的な知見は私にはありませんから、その点について何かを述べることはできません。しかし中小企業診断士として、新型コロナショックが経済にどんなインパクトを与えるのか、それが経営にどう影響するのか、考えないわけにはいきません。

政府もさまざまな支援メニューを示してくれていますが、正直、迷走しているように見えます。必要に迫られてさまざまな策を講じていますが、生煮えの状態で発表するため混乱が生じたり、メニューがありすぎるため自分たちは何を使えるのか、どれを使えば効果的なのか、わかりにくくなったりしているように思えます。

何から手をつけ、その先ではどんな手が打てるのか。勤務先で経理を担当している立場から現在進行形で考えていることを書いてみます。

■なにはなくても資金調達

勤務先では、資金調達に向けて2月中旬くらいから金融機関と話をしていました。
「もしかしたらヤバいことになるかも」
と思ったからです。

普段は「当座比率」を目安に管理しています(当座比率=現預金+売掛金・受取手形÷流動負債)。この比率が最低でも150%を超えるように短期借入などを行っています。しかし、もしかすると、売掛金や手形が額面通り入金されなくなるかもしれない。そう考えて、目安とする指標を変えようと考えました。
「現預金月商比率(現預金と1ヶ月の売上高の比率)を200%、「現預金金人件費比率」を300%、最終的に「現預金流動負債比率」を100%以上にしようと考えました。入金がなくても3か月分の給与は支払える、というのが一つの目安でした。

ただこの時点ではそれほど焦ってはいません。早めに準備しておいた方がいいな、程度だったのですが、2月末、大型イベントに自粛要請がでたり、小中学校に休校の要請がでたりしたあたりで、本当に「ヤバいかも」と思いました。新型コロナウイルスの感染拡大がどうなるかはわかりませんでしたが、消費マインドは確実に落ちる、昨年10月の消費増税とあわせて、経済は必ずマイナスになる、と考えたのです。

そこからはあっという間でした。いろいろシミュレーションをしているうちに緊急事態宣言が出る日を迎えたのです。

シミュレーションをしている間、資金調達上、もう一つ懸念がありました。

勤務先は、大分類でいえば「製造業」に属します。売上のほとんどが数ヶ月以上前に受注したものです。ですから、急に前年同月から売上が5%減したり、まして20%減したりしないのです。飲食業などいわゆる日銭を回せいている小売業やサービス業とそこが違います。

そうなると、新型コロナウイルス対策として出された融資・保証の施策はほとんど使えません。

リンク先の表をたどってみればわかります。「現時点」では使えるものはありません。

(なお、この表にしたがって進んでいくと、自分がどの施策を受ければいいかわかると思います。本記事とは別に保存されておいて損はないです)
(追記)
⇒ ■資金繰り支援内容一覧表(4/14時点)

しかし、売上が下がっていないから資金繰りが安心なわけではありません。得意先の中から、支払期日を延ばしてほしいと依頼してくるところがでてくと考えておかないといけません。売掛金・手形の一部は、予定通りに現金化できないことがあり得ます。また、外回りもままならない現状、受注活動が停滞しますから、4ヶ月、5ヶ月後には売上がダウンするでしょう。そうした状況も想定した資金調達が必要になります。

ですから、公的支援施策を抜きに、既存取引のある金融機関に融資をお願いしています。緊急融資ではないですから時間もかかっています。一部は了承を得ていますがまだ、私が考えているところまではきていません。引き続き資金調達の交渉はしていく必要があります。

■赤字でも倒産しない

さて、こうして資金調達を続けると必ず、
「勢いで借りてしまって返せなくなったらどうするのだ」
との声が聞こえてきます。

私の答えは
「そのときは倒産するしかないですね」
になります(笑) もしいま借りたお金が返せないような業績しか残せない会社なら、その前につぶれます。今回の危機を乗り切ることはできないでしょう。

会社はいくら赤字でも倒産しません。倒産するときは現金がショートするときです。通常、赤字が続けば資金が流失して、資金ショートを起こしやすくなるから倒産確率があがるだけです。今回のような危機では、損益計算書(PL)上、赤字になったとしても、ありとあらゆる手を使って現金を確保し、経済危機が終わる頃には反転攻勢に出られる体制をつくっておくことが大事だと考えています。

なにより、貸借対照表(B/S)上、債務超過ならぬ「資産超過」の会社の経理を担当していて、資金ショートで倒産させようものなら末代までの恥だと思っています。

■経済へのインパクト、経営へのインパクト

今回の経済的なインパクトは、リーマンショックよりも大きくなると予想しています。リーマンショックが強烈なストレートパンチだったとすると、今回は、コツコツと打たれ続けるジャブやボディブローです。派手な一撃ではないですが、地味に体力を奪われていって、トータルでみれば今回の方がダメージは大きい、となるのではないでしょうか。

ですからいまは、戦略云々ではなく、あらゆる手を使って資金を確保して、生き残りをはかる時期だと思っています。

1997年から98年にかけてのアジア通貨危機不況の折、当時の私の勤務先は会社更生法の適用を申請しました。事実上の倒産です。同じ業界に同じように苦しんでいる会社がありましたが、なぜ他社は生き残り、私の勤務先はつぶれたのか。あとから事情を聞いたり調べたりしました。
また、リーマンショックや東日本大震災の時、売上が2割になった(2割減ではなく8割減)会社の経営者からお話を聞いたこともあります。最初にないから手をつけたか、渦中で何を考えていたのか。そして、振り返ってみたとき、どんな反省があるか。

こうした経験や知識を総動員して、今回の危機を乗り越えたいと思います。それは勤務先だけのことではありません。診断士としてなんらか関わりを持つ企業すべてに対してそういう想いでいます。

生き残っていればいいこともあるだろうし、いい知恵が浮かぶかもしれない。そうやってリーダーたちを鼓舞していくつもりです。

*国や自治体の支援施策が一つにまとまっています。参考にしてください。
⇒ 新型コロナウイルス感染症で 影響を受ける事業者の皆様へ

*ちなみにタイトルは、西原理恵子さんのこの本からパクりました。

「お金」と「働く」を考える上ではぜひ読んで欲しい本です。

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