フグ、それから
昨年、フグの免許を取得した。
一回5000円の講習費用を支払い豊洲市場に通い詰め、なかなか時間が取れず勉強も足らず実力も足らずだったから、受かったのは本当にラッキーだったなと思う。
それで晴れて東京都のふぐ取扱責任者の資格を取得したものの、勉強してみてわかったのは、あ、私、まだ全然フグわかってないじゃんという事実。
なんかふぐ免の勉強したらフグの事、少しは理解できるかなって思ってたんだよな。
全然だった。
なんかわからないまま野に放たれた感じでして。
フグ専門店でバイトでもしてみっか、とも考えたけど、大体扱うのってチェーン店だとトラフグでしょ。あといてショウサイとか、そんなぐらい。
なんかもっとこう、いろんなフグと出逢いたいし、いろんなフグと深まりたいんですよ私は、と思い、時を前後して山口県下関市に南風泊市場(はえどまりしじょう)という一般人立ち入り禁止フグ専門市場があると聞き、そこにどうしても行きたくなった。
その頃の我が家の台所事情はというと、魚屋を退職してからちょうど1年、貯金は使い果たし、残った株を売ればあと1ヶ月分の生活費になるかならないかだけだった。
でもどうしても取材したくて、残った株を全部売って、Goproを買って、取材交渉をして、というか、取材をするには媒体がなくてはいけないのでYoutubeを始める事を決めて、下関に行った。
南風泊市場(はえどまりしじょう)は思った通り新しい発見がいっぱいで、市場の方々もこんなYoutuber(チャンネルはまだない)に親切に色々教えてくれ、タイミングよく会いたかった漁師さんに取材する事が出来、仲卸の方々の技術を間近で見せてもらう事もできた。
すごく勉強になったし、戻ってからもずっとフグ関連の書籍を読んだり、下関の歴史を学んだり、そしてそれをYoutubeにアウトプットするという、いい感じに勉強になるルーティーンを見つけてしまった。
何ならフグのグッズも作っちゃったりなんかして、この、学ぶ → 取材する →学ぶ → 動画にする → 推しグッズを作る の流れが私の人生で最高にやりたい事だな!という大いなる発見をしてしまった。
困ったのは、それでフグの何が理解できたかっていうと、私はやっぱりフグを何もわかってないなっていうのがわかったってだけ。
フグについて何かを掴めたという感触が正直、ほぼほぼない。
調べれば調べるほど、知らない事や、知りたい事が出てきて、足元の深淵の深さに恐れ慄いている。そんな感じ。
そして動画を作るために膨大な時間がかかる。
どう頑張っても収益化は無理そう。
だって更新頻度があげられない。
勉強も追いつかない。
でもやりたい。
そんな時、20代の頭に一緒に働いていた上司・先輩とご飯をする機会があった。
7、8年ぶりに会って近況を聞いたり、こっちも話したり。
20代の頃の私はただ一所懸命で、というか一所懸命以外の手札を持ってなくて、頭の悪さも、ミスの多さも、常に何かをうっかりしてしまっている性格も、全て一所懸命でカバーしようとして、結果及ばず、病んで、職場を去ったという過去があり、いろんな方に心配と迷惑をかけ、その後10年以上、かなり最近になるまでトラウマだった。
3次会で飲み潰れた上司もいる中、「そういえば最近Youtube始めたんですよ」と話したところ、当時面倒を見てくれていた先輩に「お前、下関に? 金を回収できる見込みもないのに? 取材に行ったとか? 何やってんの。本当にバカだろ」と言われた。
その言葉が私は妙に嬉しくて、あ、そっか。私バカだったわ、と思った。
金勘定も出来ないし、常にうっかりしているし、能力も低い。
でも、残りの人生でやりたい事を見つけてしまったので、それをやるために、どう動けばいいか、どうやったら魚の動画続けられるか、それが私の指針だなと最近は考えている。
なんかもう、賢くは生きられない。
周りにも迷惑かけると思うけど、家族や友達や大切な人たちを大切にして、生活できる程度に稼いで、魚屋の女将さんくらい正直に、魚屋の社長ぐらい誠実に、生きていきたい。
そのうちサバフグ系に詳しい人にも話を聞きたいし、海藻ももっと勉強したいし、何より、実はもう次の新しい動画の撮影は終わってる。
すごい人にめちゃくちゃすごい話を聞けているのに、まだ編集できてない…!
とにかく早く公開したい…!
動画作ってると、この人の話の凄さを伝えたくて、その為にはまずこの前提条件を説明して、とかなってくるから、勉強がいつまで経っても終わらない。
今なんか藻塩の製法とか勉強してるからね。
直接は関係ないけど、必要な話だと思うので。
あー能力高くなりたい。
全てを的確に素早く捌く能力欲しい。
そんな感じで今日も生きてます。
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