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2021年の名古屋グランパス総括

グランパスの5年間を振り返って

名古屋グランパスのJリーグ2021シーズンが終わった。早速始まった2022年のストーブリーグは早くも監督人事を巡り、再終戦後のセレモニーで「続投」を匂わせていたマッシモ・フィッカデンティの解任、そして前FC東京監督・長谷川健太への正式なオファーが取り沙汰されている。

今季のルヴァンカップ優勝はクラブにとっても大きな区切りとなったようである。多くのサポーターにとっては2016年の屈辱的なJ2降格から1年でのJ1復帰、そして2年連続の残留争いはジェットコースターというより暗闇のなかでそれを体験する東京ディズニーランド「スペースマウンテン」のような年月だった。喜びもあったが、むしろ苦しみの方が大きな比重を占めた長い5年間の終焉ともいえる。

その狼煙は間違いなく、2016年6月に強化部へ途中加入したのちにスポーツダイレクター(SD)としてチーム強化責任者となった大森征之の契約満了(事実上の解任)であった。

トヨタ自動車(株)の100%子会社

クラブがシーズンの終了を待たず、2021年11月中に大森氏の解任を発表したのは率直に驚きであったが、なるほど、と思わせられるものもあった。

成果だけみれば、降格が決まって崩壊したチームをすぐさま立て直し、1年でのJ1復帰は当初危ぶまれたものの無事に達成し、その後も残留争いや監督交代などゴタゴタは続いたが、2020〜2021年のリーグ戦やカップ戦での結果だけに絞れば、チームづくりの方向性が大きく間違っていたとは言えないし、「ルヴァンカップ優勝」という一定の成功も収めている。

ただし、名古屋グランパスはトヨタの100%子会社であり、経営陣は費用対効果という点から非常に厳しく査定される。もっとも重要なのは、トヨタが世界トップのグローバル企業という厳然たる事実である。トヨタにとって名古屋グランパスとはローカルビジネスではないのだ。

まずもって、大森SD解任の最大の原因はその費用対効果であろう。結論からいえば、トヨタが過去5年でクラブに投資した総額は広告費等を含めれば数百億単位のはずで、期待値を上回ることが出来なかったということだ。

大森スポーツダイレクターへの評価

世界市場でプラスになる成果を求めたからこそ、トヨタはクラブに対し投資を惜しまなかった。J2時代から金に糸目をつけず、監督に年俸1億前後を払い、有力な選手を次々と補強し、ときには世界トップ選手の補強に際して特別な費用を計上した。

そして多くの人々は忘れてしまっただろうが、2021年は本来、日本で12月にクラブワールドカップが開催される予定で、ここでのグランパスの活躍こそトヨタにとって千載一遇のビッグチャンスであった。ACLはJリーグのチームで最上位のベスト8という結果であったが、中長期的な投資の成果は本来であればACL優勝せめて決勝進出、そして来季の出場権獲得が最低限のノルマと考えられる。

もう一点、ジョーという外国籍選手との国をまたいだ法廷闘争である。そもそもJ1への1年での復帰へのご祝儀祝いと言わんばかりに、2018年に移籍金だけで10億超という異例の補強を行った。その顛末が長期的な法廷闘争となると追加費用も馬鹿にならないし、そもそもブラジル市場でのトヨタのイメージ向上に期待した戦略をも潰してしまった。

一介のサポーターとして「トヨタは金を出せ、口を出すな」「ルヴァンカップ優勝したんだし、なんで?」というのはやむを得ないと思うが、おそらく豊田章男社長を筆頭とするトヨタの経営陣からすれば、国内のサッカー界でそれなりの評価と地位を得たところで目指すはグランパスの世界進出なのだから、ノルマの未達成どころかトヨタとしての世界市場における損失に至っては到底容認できなかったと察するのが妥当だろう。

まして、名古屋グランパスとしては前代未聞の外国籍選手との長期的国際的な法廷闘争という最悪の結果を招いたことは査定上、かなりマイナスに響いたはずである。

マッシモ・フィッカデンティへの評価

この新型コロナ禍でリーグ戦5位、天皇杯ベスト8、ACLベスト8、ルヴァンカップ優勝というのは、普通に考えればJリーグのチームとしてはかなり優秀な部類に入る。

しかしながら前述のとおり、トヨタにとっての最優先事項は世界進出だったはずである。この文脈では今季成績の優先順位は、ACL優勝>リーグ優勝>ACL圏獲得(天皇杯優勝もしくはリーグ3位以内)>タイトル獲得で、ルヴァンカップの優勝より来季のACL圏を獲得することの方が重要だった、と考えられる。

さらにマッシモ・フィッカデンティの年俸だが、昨季は推定7000〜8000万だったが今季は推定1億となっている。タイトル獲得の成果を引っさげて、代理人含めてかなり強気の交渉を行ったのはほぼ間違いないだろう。

細かい条件交渉は不明だが、加えて「補強選手についてもアイデアがある」と述べていたとおり、チーム年俸そのものを押し上げる意向もあったはずで、これはクラブ経営陣にとってファイナンシャル・フェアプレーを維持する観点から対立した可能性は高い。

挙げ句、来季の契約が交渉中であったにも関わらず、今季最終戦でマッシモがフライングでサポーターに向かって続投を前提としたフライング発表を行ったこともクラブ経営陣の反感を相当強く買ったであろうことは容易に想像がつく。セレモニーで小西社長はこの件には決して触れることなく、あえてスルーしていた。

もはや「解任が決定的」と報じられている以上、おそらくフィッカデンティ続投の目は限りなく薄いとみるしかない。

私個人の評価や来季の構想については、またいずれ諸々が発表され次第、日を改めて記したい。

(以上、敬称略)

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