パラドックス

お風呂に入って綺麗になったのに
きみは煙草の毒を入れる
勿体ないと思うけれど
きみは重石がないと飛んで消えてしまう。
吸う?と差し出された紙切れから
煙を口いっぱいに含む
これが愛なんだって
わたしが飛ばされて踏み潰されて空気の抜けた風船のようにならない方法
世界がわたしときみだけになればいいのに
黒い服ばかり好んで視覚まで重石を纏う
腕を絡める
きみが吹き飛ばされぬよう
わたしが地上へ踏みとどまれるよう
視覚を奪う重石になる
人間は軽い
ビルの隙間から今日も誰かが飛ばされていった。世間に殺されたんだって、どうしたらいいのかコメンテーター達が好き勝手に愛や恋や家族を語る。みんな口に煙を含めばいい。煙草の形状は女の乳房とおんなじだって誰かがせせら笑っていた。みんな口に含んで安心したらいい。自分は誰かから産まれたという身体の記憶があることを。

#パラドックス #詩 #現代詩 #煙草 #重石

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