ふたり

ほら、あそこが僕の家だったところ。

助手席から眺めたそこは、車が数台止まった駐車場だった
知らない間に家がなくなったと
前を見ながら明るく話す

同じように明るく笑いながら
そっか、あそこが。と、外を眺め続けた
遠ざかっていく駐車場
車内は青春時代の洋楽が流れていて

同じタイミングで
同じものを食べたいと思うようになる
同じタイミングで
同じ歌を歌いだす
同じタイミングで
同じ人を思い出す
好きな色や味覚や思考や生活が
互いに馴染みあって
ふたり が ひとつ になろうとも
ひとりぼっちだった頃の記憶はいつまでも ひとりだけのものだ

ひとりぼっちの頃に受けた痛みを抱えこんだまま
わたしたちは ひとつになった

隣で運転しながら笑う恋人の
ひとり 抱えた痛みを
心臓の奥 感情の奥底でそっと撫ぜる様に想像する
日本中にありふれた駐車場の景色を そこに丁寧に貼り付ける

指先の爪のかたちが違うから
皮膚の軟さが違うから
放つ香りが違うから
その体内に違う血液を通わせるから
ひとつになっても互いはどこまでも他人である
決して地続きになることのない岸辺のような
果て無きひとりぼっちを携えたまま
奥底の景色を撫でたまま

わたしたちは車を降りて 手を繋いだ

#詩 #現代詩 #自由詩

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