新たなる人

誰かのことを責めたかったわけじゃない
けれど責め立てなければ泣くことが出来なかった、怒らないでください、奪わないでください、できないんです、声が追いつかないんです、ごめんなさい、ごめんなさい、こんな人でごめんなさい、なにもできなくてごめんなさい、大人になったわたし、なにもできないままで、誰にも愛されない、何にだってなれるよ、だから自分を信じて。と投げられた言葉を何一つ理解できなかった、18歳の頃、幸せになって。と、見送ってくれた彼女、しあわせがなにかわからないと応えたらかなしそうな顔をさせてしまった。愛されること、かたちのないもの、だれかのそばにいられるということ、接客中の店、男の隣、わたしいつもどんな顔してたっけ、どう笑っていたっけ、口を阿保みたいに薄くあけたまま、空洞のカプセルのかたちした虚しさがするりと酒に溶けて、明け方の朝日と共にわたしのなかへ返却される、おんなはいつかツノが生える、上手く生きていくために隠しなさい、婚約の日被った白、それさえも、蚕の命を奪って出来ている、声を奪われた人魚姫はどうかなしみを表現したんだろう、話す言葉が追いつかなくて、どうして、書くということでしか訴えることができないのだろう。彼女が手を握ってわたしの幸いを願ってくれたように、わたしも誰かの幸いを一瞬でも祈ることができるのでしょうか、なにも奪わずに、おかあさん、おとうさん、ごめんなさい、ごめんなさい、なにもかも奪って壊して放置して溢れされて傍観して晒して繕ってまた非難して殴り壊して見知らぬものたちを利用して食べ尽くして、限りあるなんて信じられない未来を消耗しながら、空白を埋める、言葉をたくさん盗む、ペリスコープ、屈折したまま眺める未来、これを読むだれかひとりだけを傷つけるということ。

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