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熱帯夜

本、音楽、ラジオ、近所のbar、友人が淹れてくれるコーヒー。一人でどうしようもなく憂鬱になっている時、私が憂鬱でいることを許し優しくそばに寄り添ってくれる存在。最近はとくに、人と話すまでに時間が欲しいと思うような苦しい出来事があり、一人部屋で静かに楽しめる、ラジオと本に救われている。

誰かの優しい話し声が部屋にあると落ち着くから、ラジオをずっと流している。ラジオを流しながら、おしゃべりの煩い脳を鎮めるべく数独を解いたりしている。一つ問いが解けると熱っぽいものがすうっと楽になる。

本には、その登場人物たちと自分の心を重ねて、深い場所まで一緒に落ちていき、苦しく悶えながら、泣いたりふっと笑ったりして、感情の整理を助けてもらう。最近は又吉直樹氏の東京百景を読んだ。ご本人が生きてこられた現実に対する一つ一つの心象風景が一滴もこぼれ落ちないように描かれているようなエッセイで、読んでいてとても苦しかった。息ができないほど暑く蒸せ返る熱帯夜を、目的地がわからないまま彷徨い歩き続けたようだった。時折自分もそうしているように。時間がまったく進まず、空気はまとわりつき、呼吸ができなかった。

作家さんの表現に、もう独りでは抱えきれなくなった私の中の感情を取り出して貰っている感じがする。ずっと抱えている重たく苦しい感情をこれほどまで丁寧に生々しく表現することは自分ではできないから。そしてここ東京で、息ができないような夜を過ごしている人がいた、独りではないのだ、ということに私は本当に救われる。今日は熱帯夜。

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