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小値賀・平戸 | 絵日記

小値賀と平戸


小値賀と平戸

  去年の秋、みぞさんと弥三のはしやみさんと4人で旅をした。一週間かけて車で九州を横断しながら、みぞさんの友人やこれまで弥三の宿に泊まりに来たゲストに会いにいく旅。

 3日目に訪れた長崎県の西の端っこにある島、平戸。平戸と小値賀は昔、ともに平戸藩に属していた。平べったい地形が印象の小値賀と、山と海が隣り合っている平戸。地形は違うけど、どちらも海の色がエメラルドグリーン。素潜りで魚を採り、ギターを弾き語るという何だかとても楽しそうなお兄さん・文ちゃんが平戸を案内してくれた。はじめに訪れたのが、『たねのわ搾油所』。工房は静かな林のなかにあって、古い空き家を店主の青木さんが自分で改修してつくったそう。工房のは、こじんまりとしていて、薪釜と搾油器がずっしりと佇んでいた。薪釜に火を焚べ、菜種やゴマを焙煎する。それらを搾油器でゆっくりポタポタと菜種油とゴマ油を絞っていく。手間と時間をかけながら、昔ながらの油作りをここで行っているそう。焙煎して、抽出するという流れが、珈琲みたい。油の作り方なんて、今まで想像もしてみなかった。工房の前には、もう一つ古民家があって、明らかに素敵オーラがほとばしっていて(言わずもがな、青木さん夫婦の住まい)、青木さんは快く自宅にも案内してくれた。正面には土間と薪ストーブ。黒色のモザイクが貼られた古い釜戸に、レトロなパステルカラーの流し台。昔ここに住んでいた人が、背の低いおばあちゃんだったらしく、どこも背が低く作られている。そこに青木さんたちの生活が上書きされて、かっこいいとも、お洒落とも違う、生活の営みが広がっている。林の中の工房と住まいでは、時間がゆっくりと大切に流れていた。

 文ちゃんが次に案内してくれた『塩炊き屋』がこれまたすごかった。海岸沿いの道路を下ったところに突然現れる浜辺の小屋。薄暗い屋内を進むと、中央に溶岩の塊のような大きな釜があり、なかではゴゴゴゴゴゴ…と、静かに厳かに水が沸きあがっている。この工房を一人で作り上げたという、玄人のような弥彦さんが、幹のように太い薪をドカドカと釜に掘り込んでいく。その足元では、迷いこんできたらしい生まれたての子猫が、炎の温もりに暖をとり、ニャアニャアと寝転がっていた。うそみたいな空間に、目を瞬かせていると、弥彦さんが塩の作り方を教えてくれた。こんなにも身近な塩が、海からできていることすら忘れていた。目の前に広がるどこまでも美しい海。そこの浜辺で火を焚べ、塩をつくる弥彦さん。どこを切り取っても美しくて、ただひたすらにドキドキした。

 その日は、山彦舎という古民家の宿に泊まった。夜は、山彦舎を営む吉田さん一家と、搾油所の青木さん夫婦、協力隊として平戸に移住したきたというゆかりさん、そして文ちゃんと、昔牛舎だったという山彦舎内にある薪小屋のような空間で一緒に過ごした。その日はヨッシーさんの誕生日で、みんなでケーキを食べ、文ちゃんがギターの弾きながら歌を歌った。わんことにゃんこもいた。夜遅く日付が明日に変わっても、薪ストーブを囲みながら、みんなでいろいろな話をした。

 たった一泊の平戸で過ごした時間を思い出すたびに、あれは幻ではなかったのか?と思う。海と山に囲まれた美しい自然と、火を焚く匂い。あの幸福な空間は一体なんだったんだろう。

 この旅で出会った人たちは。暮らしと仕事と自然が同じところにある人ばかりだった。どんな環境に住みたいのか。どんな暮らしがしたいのか。どんな仕事をして生きていきたいのか。自分自身のものさしを持ち、そのものさしを他人に振りかざすことなく、日々ていねいに自分のなかで磨くような暮らし。それって簡単にできることじゃない。私のものさしはまだガタガタだけど、時間をかけて丁寧に育んでいこうと思った。

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胡麻油

 

●平戸を訪れた次の日に、青木さんから電話がきて、たねのわ搾油所の胡麻油につける栞のイラストを書かしてもらうことになった。小値賀のYANOYAの二人も、搾油所の二人も、知り会ったばかりの私にまかせてくれるなんて、すごい太っ腹。こうやって縁が繋がる瞬間に、絵を書いていてよかったなあ心の底から思う。

・山彦舎 https://yamahikosha.jimdofree.com
・たねのわ搾油所 http://tanenowa.mystrikingly.com
・塩炊き屋 https://shimakara.weebly.com/22633288101236523627.html


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