米津玄師〈Lemon〉J-POPの「失われた10年」を鮮やかに終わらせた1曲。オリコンからビルボードへ、ヒットチャートの変遷
「最近の曲はわからない」と大人のたしなみのように言う人もいるけど、私はいくつになっても、流行りの曲を聴いていたいと思う。
それなのに10数年前、30歳を過ぎたあたりから、流行りのJ-POPについていけなくなった。いいと思える曲が、とても少なくなってしまった。時々いいと思うものがあっても、それが世間で大ヒットすることもない。誰かと「あの曲いいよね」と言い合えることもほとんどなくなった。
そしてある年、オリコン年間トップ10を見て、私は「あぁ終わったな」と思った。
この人たちが嫌いなわけではない。でもこのランキングが、世間の興味と一致したものだとは、とても思えなかった。
翌2016年、RADWIMPS「前前前世」、ピコ太郎「PPAP」、そして星野源「恋」が大きな話題になった年、オリコン年間トップ10はこんな状態だった。
もうJ-POPのヒットチャートをチェックしても、お気に入りに出会うことはできない。皆で「あの曲いいよね」と言った曲が、ヒットチャートに上ることもない。各々が勝手に好きな曲を探して、各々で聴いて。もうそういう時代なんだな。と思った。
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2018年、風向きを大きく変えたのは、米津玄師さんのこの曲だった。
ドラマのテーマ曲だった「Lemon」は、はじめはドラマのファンに支持され、まもなくラジオやテレビやあらゆるメディアで取り上げられ、ヒットチャートにも上るようになった。その年米津さんは紅白歌合戦に出演し「Lemon」を見事に歌い上げ、人気は最高潮に達した。
でもそれだけでは終わらなかった。その後気鋭の若いミュージシャン達が次々と頭角を現し、ヒットチャートを賑わすようになった。Official髭男dism、King Gnu、あいみょん、YOASOBI、藤井風、Vaundy・・
90年代を思い出すような、突然のJ-POPの活況。いや、CDバブルに浮かれた90年代と比べて、個々の質が抜群に高い、とさえ思う。
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それにしても2015年頃の、シュールなヒットチャートは一体なんだったのか。あれこれ調べていたら、こんな記事に出会った。
なるほど、あの奇妙なランキングは「オリコンの不作為と、それを利用して売上を伸ばした勢力」によるものだった。各メディアがオリコン依存から脱して、活気が戻ってきたのだ。
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「Lemon」の大ヒットと米津さんの圧倒的な実力に刺激を受けるように、数々の才能がヒットチャートに躍り出た・・というストーリーを、いちリスナーの私はふんわり描いていた。
実際は、どうだったのだろうか。
上記の記事で、こんなブログが紹介されている。
音楽チャートの分析サイト「Billion Hits!」。
執筆者あさ氏は、CDと配信を合算した年間チャートがなかった時代のランキングを、個々のデータから分析し、適切な年間楽曲人気チャートを再構築することを試みている、という。
なんとも興味深いが、ボリュームがすごいのでまだチェックできていない。ぜひ後ほど、ゆっくりみてみたいと思う。
ここではこのブログにある、米津さんに関する興味深い記事を引用したい。
配信ダウンロードの認知、知名度、信頼性を上げたのが、「Lemon」だった。これでCDに偏った状態が改善し、本当に広く聴かれている曲がチャートに上り、注目されやすい環境が整ったのだ。
やはり米津さんと「Lemon」は、J-POP復活の立役者だった。
その後に続いた髭男の「Pretender」やKing Gnu「白日」など、数々の名曲が広まるための地ならしをした、といってもいい。
それだけの力を持った曲を作ってくれて、本当にありがとう、と思う。
おかげで、とっくに若者でなくなった私も、まだまだJ-POPを聴きつづけられる。10年前よりもずっとたくさん聴いているなんて、なんだか不思議だ。
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