チーズを買う可愛い私たち

むしゃくしゃしたことがあってパルミジャーノレッジャーノを購入した。


スーパーのチーズコーナーにあることは知っていたが、カットしてグラム売りされているそのチーズは大した量がないのに、いつも買うスライスチーズ198円や、ミックスチーズ大容量298円に比べて日々の食費から捻出するにはちょっとお高く、買おうなんて思ったことがなかった。


しかし、noteでお料理上手の方々をフォローさせていただき、パルミジャーノをふぁっさ~と摺りかけた美味しそうなお料理を涎を垂らしながら眺めることが増えたこと。


そこへむしゃくしゃした気持ちが合わさって、えーい!と買った。

何のことはない。ただチーズを買っただけの話。

高いとはいえ、何万円とするわけでもなく一気に全部使うわけでもない。

おろしたてのチーズは粉チーズより香りがよく美味しい。もちろん粉チーズで満足できる私には、とびきり美味しかった。


たった数百円のチーズを買っただけで、気持ちがスッとした私は可愛い。

20年来の友人にこの話をしたら、めちゃくちゃ共感してくれた。

「チーズでささやかな贅沢気分を味わって気が済む私たちは可愛い。」

そういう結論に至った。


ついこの前出会ったばかりだと思っていたその友人とも、もう出会ってからの方が長い付き合いになった。それは地味に嬉しいことだ。

30歳になるとき、三十路か・・と何故か構えていたが、同級生がみんな一緒に三十路になるのに、私ひとりがずーっと29歳で置いて行かれるわけにはいかんわ!って気持ちになったし30歳になったからって何も変わらなかった。

歳を取ることはネガティブな印象があったけど、レベル30になったと思えば、途端にもっと上を目指したくなるようになったし、悪くないなと思えた。

私自身10代の頃と変わっていない(のはまた問題かもしれないが)わけで、一緒に歳を重ねていく友人がいて幸せだなあと30歳以降毎年思う。

当たり前だけど、毎年みんなきちんと歳を取れることは凄い。


私のことではないので詳細に書くべきではないが、社会人になって出来た友達が、病気になった。数年経ち今のところ安定しているが、数カ月に一度の定期検診を受けながら経過観察は続いている。

病名を聞いたとき目の前が真っ暗になった。お医者様に「今年の誕生日は迎えられるかもしれないが、その次は分からない」と言われたと聞いた私はショックが隠し切れなかった。

当時、出会ってもう10年になろうかと言う仲で、何度も旅行したり食事に行ったりときには一緒に合コンに参加したりと、数少ない仲の良い友達。

社会に出てこんな友達が出来るとは思っていなかった。

そんな大切で大好きな友人の来年が分からないなんて。

30代も始まったばかり。
まさか自分の周りでこんなことが起きるとは思ってもみなかった。

ああ、一緒に歳をとっていくことってすごいことなんだ、とその時強く感じた。

たくさんの葛藤はあったと思うが、今すべきこと、やりたいことを見つけてはどんどんチャレンジしている彼女。いつも「今が一番楽しい!」という彼女の明るさに私の方が救われた。



現平和公園付近で建物疎開の作業中だった生徒、教員500名超全員が亡くなった女学校に通われていて、8月6日当日たまたま作業に参加せず生き残った被爆者の証言に『一緒に入学した方々と長く話し合える幸せを失った』とあった。

楽しかったこと、辛かったこと、学生時代色んな経験や思いを共有した友達と、おばあちゃんになって懐かしい思い出話が出来る、そんな当たり前に思える未来が奪われた。これには涙が止まらなかった。

チーズの話をする友達とは20年来。

病気に罹った友人とも気付けば出会って10年以上が経つ。

物心つく前からの幼馴染もいる。

こんな素敵な友達がいることは当たり前でなく、とても幸せなことなんだと思った。

離れ離れになった子も多いが、いまだに他愛無いことで連絡を取り合うし、時には相談したりされたりする。そして何より普段会えなくても、たくさんの思い出を共有している、そんな存在がいることは心強い。

私の友達は、どんなに腹の立つことやどんなに悔しいことがあっても、ちょっと高いチーズを買って己を奮い立たせ、気持ちを切り替えられるような気の強い子が多い。

そんな気の強い友人らを尊敬しているし、大好きだ。


一人パルミジャーノを削りながら、そんな大好きな人、大切な人には少しでも長く健康に幸せに生きてほしい、と強く願う餃子なのでした。




おわり


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