毒親育ちと同棲

久しぶりに兄とLINEをした。

次兄は長く付き合っている婚約者がいる。結婚を前提に、と話していたので婚約者と呼んでいるがもう何年も婚約者のままである。次兄は盆と正月に相手方の家へ挨拶に行くし、ご不幸があった時香典も送っていた。しかし結婚はしていない。同居もしていない。

別居婚でも事実婚でも何でもいいのだが、この先どうしていく予定なのか気になって質問してみた。色々横道に逸れながら喋っていたのでまとまっていないが、大体このような話をしていた。

彼女は趣味が合うし一緒にいて楽しい。しかしちょっとうんざりすることもある。笑顔でいるのも世話を焼こうとしてくれる(兄は超ブラック企業で働いているので私生活が終わっている)のも行事ごとに「今年は何しよっか」嬉しそうに考えてくれるのも。自分のためにしてくれているとわかっているけれど「なんなんだこいつ、鬱陶しい」と思ってしまう。会っている時、彼女を喜ばせたいと思う気持ちは本物だが、常にその振る舞いを求められるのは無理だ。恐らく一緒に住んだら関係は終わってしまうだろう。
彼女の実家は大家族で、親戚の多くは近所に住んでいる。正月は当たり前のように全員集合して、数日間一緒に過ごすらしい。とてもフレンドリーで親切だったが、急に来た人間をすぐに家族の一員のように扱う距離の近さに、少し居心地の悪さを感じた。
そういうわけで結婚は気が進まない。彼女の方が年上(30台前半)なので、急かされると思ったがそれもないのでとりあえず今の状況が続いている。

「この甲斐性なし」でも「親切にしてもらって何だそれは」でも、次兄に言えることはいくらでもある。しかし私は言わなかった。次兄の気持ちが痛いほどわかるからだ。

人を大切に思う気持ちがないわけではない。仮に結婚するなら温かい家庭がいい。冷たい、ギスギスした関係など望んでいない。
しかし、恐らく普通であろう振る舞いを自分がしていると違和感がある。笑顔で話して聞いて、相手の気持ちを考えて、次は何を一緒にしようか考える。それをひとつ屋根の下に暮らす相手に向け続ける。そんなこと自分に出来るだろうか?
両親は私達の気持ちなど考えていなかったし、幸せを願われた事もない。反対に、私達も両親の気持ちを考えたことはないし「大人になったら親を殺して自分も死のう」と考えていた。

誰かを思いやることの経験が、私達には少ない。だから違和感を感じるし、当たり前のようにそれができる人に居心地の悪さを感じてしまうのだと思う。「何が目的だ?」と色々疑ってしまう。

次兄は父と同じ趣味を持ち同じ職業を選び、長兄や母を馬鹿にしていた。婚約者のことも「あいつは馬鹿だから何にもできない」と言っていた。まさしく父の跡継ぎと言える人間になってしまったのだと思っていた。この人は恐らく、毒親に育てられたとは感じていないのだろうと。

しかしそうではなかったのだと、この会話で気づいた。確かに次兄には父と同じ性質がある。しかしそれを自覚しているし、自分が加害者になる未来が見えるから人を避ける。横暴な悪口は虚勢か、その人なら許してくれるだろうという甘えかもしれない。

次兄の考えはとても共感出来るものだった。しかし30代前半の女と長く付き合っていながら、結婚する気はないと言っている男は一般的な目線から見るとやばい。
2人で話しあって何かしら結論は出すべきじゃないか。というか彼女は何を考えているのだろう。
次兄に聞いたら「向こうもそういう話してこないし何も考えてないんじゃない?」と言われた。
考えてないことないだろ。気を遣われてるか諦められてるかだよ。察しが悪い。
こういうところが父と似てるんだよな、と思いつつ、私にも少なからずこういう面があるのだろうなと思い知らされた気がした。


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