介護保険ガチ勢

まだ被保険者ではないが私は介護保険に詳しい。福祉業界で働く人レベルだと思う。

勉強を始めた動機は、親への復讐である。

祖母が入っていた老人ホームのケアマネさん、ヘルパーさんはとても親切だった。杖を振り回し喚く祖母の世話は大変だったはずなのに。部屋の模様替えを提案したり、料理好きな祖母と一緒に秋刀魚を焼く催しを企画してくれたり、祖母が笑顔になる方法を模索してくれた。
一方私がボランティアに行っていた老人ホームは人手が少なく、一人一人の笑顔について考える暇などなかった。浴室の前に5人くらい並べ、バケツリレー方式で身体を洗い3分湯船に入り、また廊下に並べて数人まとめてドライヤーをかける。この作業を心の中で「ドナドナ」と呼んでいた。
一部屋に6人いて入居者同士のトラブルもあった。面会に来るどころか「早く死んで欲しいんですよ」と平然と言う家族もいた。

2つの老人ホームで、入居料は大して変わらない。選択次第で老後の人生はこんなにも変わる。

いつか両親が弱り介護が必要になったら、劣悪な環境に放り込んでやろう。その為には知識が必要だと、勉強を始めた。ボランティア先で社会福祉士のテキストを貰い暗記した。3年に1度改正されるので厚労省のホームページで確認した。虐待は犯罪だ。合法の範囲で苦しめなくては。裁判になった事例も調べた。就活の時「学生時代頑張ったことは?」とよく聞かれたが間違いなくこれである。寝る間も惜しんで勉強していた。

介護業界は人手が足りず、初任者研修等の資格を取るための課程を自治体が補助し、無料で取得できるところもあるらしい。熱心に介護を勉強する人間の中にこんな奴がいるとは想定外だろう。

アラサーになった今、両親を苦しめてやろうとは思わない。怒りを保つ元気がない。しかしいい老人ホームに巡り会い笑顔で過ごして欲しいとも思っていない。恐らく我関せずを貫いて、「子供の協力が得られない」とヘルパーさんを困らせるんだろうなと思う。



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