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「業務改善したのに、何も変わらない」この“業務改善あるある”の謎を解明する

 昨今、バックオフィスで役立つSaaSが次々に発表され、実際に導入を進めている組織も多いでしょう。

 確かに導入しました。けど…

楽になりました

「これまで紙でやり取りしていた申請がなくなって、わざわざ紙をやり取りする手間も、打ち込みの手間も、間違いもなくなり、一気に楽になりました。」

 実際、それなりのSaaSを導入するとその業務は楽になります。

 特に電子化が進めばその効果は確かに実感できるでしょう。紙の申請が電子化では、業務だけでなく、申請者側の手間も間違いなく省けています。

 SaaSに限らず、紙の申請をGoogleフォームに置き換えるだけでも十分な「改善効果」が見込め、確かにそれに係る業務は楽になります。

何か、変わりました?

 …ん?

 確かに、その業務は楽になっています。でも、早く帰れるようになりましたか?あるいは、別の付加価値の高い業務も任されるようになって給料が上がったとか?会社の売上が増えたとか?

 楽になったのですから、少しぐらい優雅にお茶を頂くことぐらいは、できるように…なっていません…か?

 何も変わらない、それもそのはず。

 SaaS導入前に8時間かけてやっていた業務が、SaaS導入後に8時間かけてやる業務に置き換わっただけですから。SaaS導入前と後の業務が「目的と掛ける時間が一緒の、別業務」という、微妙な関係。

SaaS導入の目的は達成されているか

 ところで、SaaSを導入する際に目標は立てましたか?今、8時間かかっている業務を、SaaS導入で4時間に短縮します、とか。

 もし、予めそんな目標を打ち出されたら、現場の人々はSaaS導入に誰も賛成しなかったかもしれません。給料が半減するかもしれません。導入推進派はそれがわかっていて、敢えて何時間短縮のような話は持ち出さず、思惑として、導入すれば間違いなく楽になるのだから、どれくらいの成果かはわからないが、少なからず労働時間が短縮される“だろう”、と、考えていたのではないでしょうか。

 ところが、残念でした。

 楽になることと、労働時間短縮は「別物」です。楽になれば労働時間が短くなるものではありません。倍の速さで手を動かせば、楽になりませんが、労働時間は短縮できます。

時間に関する改善成果は明確な目的が必要

 業務改善屋の昔の実経験ですが、年に1度、1500名ほどから申請される紙を電子システム化してほしいという依頼があり、もともとあったスクラッチシステムにちょちょいとフォーム機能を追加して対応しました。これによって、パンチ入力外注委託費の実費20万円と、関連する確認社内役務100時間が削減できる想定でした。

 ですが結果は、確かに実費20万円は完全に削減できましたが、「役務100時間の削減」は実現しなかったのです。

 正確に言うと、その役務では100時間の削減はできたけれども、新たな役務が発生して、労働時間の短縮に繋がらなかった、というべきでしょう。

 一体、何が起こったのでしょうか?

 「浮いた実費20万円」は、使おうと思ってもそれなりの決裁が必要ですから、面倒なので誰も手を付けなかったのです。一方労働時間は、早く終わったからと言って勝手に早く帰ることはできず、早く帰るための手続きも良く分からず、また、早く帰れば給料が減るということを考えると、面倒かつ不利益しかないため、“だれも労働時間に手を付けなかった”のです。

 100時間分の業務は間違いなく削減されたのですが、担当者は、わざわざユーザーが自ら入力フォームに入力した内容をExcelに落とし込んで、目視で確認(何を確認するのかは不明ですが)するという無駄な業務を始め、労働時間を調整したのです。

 早くやっても早く帰れないし、かといって遊んでいるわけにもいかないので、まあ、そうなるでしょう。

 この改善プロジェクトには重大な問題があったと言えます。浮いた20万円の使い道も、浮いた100時間の使い道も、当初から誰も想定していないし、誰に説明もしていませんでした。それが20万円は浮いて、100時間は浮かない、という結果に繋がったのです。

 労働時間は、明確な目的がなければ、それを延ばすことも縮めることも難しいのです。このことは、今の労働が「時間ありき」である以上、避けられないと考えられます。

業務改善と業務改「悪」は紙一重

 「確かにやったのに、何も変わらない」現象の正体は、変わっていないのではなく、減った分、増えている、に他なりません。

「増えたもの」が新たな付加価値を生み出せば業務改善です。
減った分、何も増やさなければ、それも業務改善です。
減った分、無駄な業務を増やすのは業務改「悪」です。

 何も変わらない、と感じられるのは、それがおおよそ業務改「悪」だからでしょう。

 業務改善と業務改「悪」は、具体的な業務改善策は同じなのに、明確な目的があるかどうかが違うだけ、まさに紙一重です。だからこそ、どっちをやっているのか?ということも分からなくなってしまうのですが、「明確な目的があるかどうか」で判断できます。

まとめ

 業務改善の目的を明らかにするのは、個別業務の担当者の役割ではなく、組織全体のマネジメントの一部です。個別業務の業務改善は、組織の業務改善の先にある、と言えるでしょう。

 「業務改善」というと、どうしても「業務=個別業務」が着目されてしまいますが、業務改善は明確な目的を持った組織全体の方向性の中で行われる活動の一部であることを忘れてはいけません。

 繰り返しになりますが、業務改「悪」は、表面上は業務改善と同じことをやりますが、何も変わりません。無駄な業務改善業務です。

飛ばねぇ豚は ただの豚だ

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