日の出町ブルース

曇り空がやけに似合う京急本線横浜駅から2駅。遠くにみなとみらいの観覧車や高層ビルが輝いている。そんな夢の対岸に質の悪いセメントで塗りたくられ、色落ちした金髪のような街。やるせない気持ちが胸を覆う。

ホッピー、199円、ホルモン、ロック座、マッサージ。まるで行きずりの女のような看板たち、それを横目に酔いの回った足取りは次の酒を探す。
戦後、赤線やスラムのあったこの土地に染み付いた生々しい人間の匂いはあまりにも臭すぎて、心の底から眩しいものに思える。
実際この近辺で酒を仰ぐと大概良いことは起きない。そもそもの酒癖の話は抜きにして、本当にひどい。恥ずかしくて言えやしない。何度ここに禁酒を誓ったか。

夜になるとロマンチックの押し売りのような下品なライトアップがされる、そんな、大岡川沿いのプロムナードをブルースの一節に揉まれながら歩く。
川面に揺れる、時代に死なれた未亡人よ、俺に声をかけてくれてもいいんだぜ。と、調子の良いことを呟く。いつも、この街のことをもっと知りたいと思う。まだまだ勇気が足りない。踏み入れちゃ行けないとこにも行ってみたい。
もう少しだけ酔っ払ってから次の探検をしようと思う。
粗悪な酎ハイ越しに見た人々の顔は案外良い顔をしていた。


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