日本酒についての2つの提言

 ソムリエと言えば、よく一番好きな酒類がワインのように思われますが、全くそんなことはありません。ワインエキスパートというワイン好きのための資格もありますが、ソムリエはあくまで職業資格であり、それは本来提供できる全ての飲料に関してお客様のご相談に乗る係のことで、ワインを含めた個人の嗜好とは基本的に関係ありません。まあワイン嫌いはいないかもしれませんが、下戸なら私の周囲にもいます。大分前置きが長くなってしまいましたが、要は私が日本酒党であるというのも、別に珍しいことではないということです。

 飲食店をやっていて思ったのは、相変わらず淡麗辛口好きが多いということです。それが駄目ということでは全くありませんが、もう少し違う味にもチャレンジして欲しいなあと思うことはままありました。日本酒はその原材料と製法から、端麗辛口より芳醇旨口になるのが自然なお酒です。たとえ究極的低精米にしたとしても、白ワインの端麗辛口さには及びませんし、そこで競うこと自体間違っていると私は思います。むしろ米の旨みを味わえる唯一の酒として単に日本食の食中酒だけではなく、他の国の料理と合わせてもワインより柔軟性に富んだ飲料であることを誇るべきだと思うのです。
 私は大吟醸が好きですが、あまりにも値が張る物は(自腹では)飲みません。現在の精米技術なら10%以下に精白することも可能ですが、日本人にとって最も大切な食材である米、それも最高級山田錦の9割を捨てること(もちろん削りカスも再利用できます)が、日本酒が目指すべき方向性とは到底思えないのです。アルコール添加酒である本醸造は純米酒より通常安いにもかかわらず、純米大吟醸より同じ精米歩合の(アルコール添加の)大吟醸の方が高値の蔵が多いのは不思議なことです。結局端麗辛口と吟醸香にこだわるあまり、このような逆転現象や付け香の問題がなくならないのです。ただ一方で、大吟醸を名乗るにはどうなのかというレベルの酒が存在するのも事実です。そこで第1の提言です。
 精米歩合60%以下のものは、特別純米、特別本醸造に統一する。(純米)吟醸は50%以下、(純米)大吟醸は40%以下に限定することです。これにより輸出品として恥ずかしくない品質の向上も図られ、付け香する蔵も減るのではないでしょうか。もちろん平均価格は上がりますが、それで売り上げが下がる酒は、何らかの変更が必要なのだと思います。

 もう一つは、新酒発売日の統一です。安酒であったボージョレ・ヌーヴォがあれだけ有名になったのは、新酒解禁日を11月第3木曜日に世界中で統一したからに他ならないでしょう。たとえば12月30日に日本中の全蔵が新酒を一斉に発売し、お正月は新酒で乾杯し新年を祝いましょう的なキャンペーンを大々的に張れば、日本酒を飲む人も消費量もきっと増えるに違いありません。一部でやればカルテルかもしれませんが、全部で決めれば独禁法違反には当たらないはずです。日本の飲食業界は、どこも横の連帯が悪いのです。幾つかの県では数件の有力蔵が共同事業を行っていますが、都道府県全体という話は残念ながら聞いたことがありません。しかし発売日統一なら、本気でやろうと思えば決して難しいことではないように思うのです。輸出ももっと積極的にやるべきだと思いますが、日本人にもっと日本酒を飲んでもらうための活動が根本的に足りないと思います。

 

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