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「麻田君、天を仰ぐ」・・・銀細工の看板は、地球を守る?


これは、30年ほど前の話。
バブルの勢いをかって、麻田君にも海外出張が多くありました。

初めて単身でインドネシア出張でバリ島に行った時の事です。
ジャワ島にいる関連会社の田中さんが、現地ガイドを手配してくれるというので、

「思いっきり現地の人が泊まるような、日本で言うとドヤ街みたいな宿をお願いします」

と伝えました。

田中さんは奇妙に思ったようですが、麻田君には総お願いする理由があったのです。

「高級ホテルは世界中どこへ行っても同じ。でも、安いホテルなら、その国の個性が出る。文化や習慣の中で外せないものが残っているに違いない」

そんな風に考えていたのでした。

麻田君がバリ島の空港に着いた時、二人のインドネシア人ガイドが
「ASADA-SAN」と書いたプレートを持って待っていました。

「セゥラマ シアン」

と、覚えたてのインドネシア語で挨拶をすると、ガイドは

「ようこそ、アサダさん。一人? 後の人は?」

と聞いてきます。

「いや。僕一人だよ」

と答えると、二人はちょっと戸惑った顔をしましたたが、すぐ笑顔になり、
麻田君をジープに案内しました。

街の中心を抜ける途中、10階建てくらいの高層ビルがいくつも建設途中でした。

「発展著しいな・・・」

と感心する麻田君。
ふとある事に気が付きました。完成した大型ビルの屋上には、皆、直径5メートル程の銀色の巨大なザルが乗っているのです。

「何だろう、あれは」

気になるので、ジープに乗っているガイドに聞いてみました。

「ねえ。あのビルの屋上に乗っている銀色のザルみたいなのは、何なの?」

二人のガイドは、麻田君の指さす方を見て、互いに顔を見合わせ、
何か話しています。

そして、営業用の笑顔を麻田君に向け、

「あれは、銀細工の看板ですね。インドネシアは昔から銀細工が盛んですから、お土産に買って帰ると、女の人に喜ばれますよ。ハハハ~」

と言ってきました。

「銀細工ねぇ。そんなにお店があるのか・・・」

銀のザルは、ほとんどのビルの屋上にあります。

麻田君は銀細工の人気に感心しながら、ニコニコ笑いながらこちらを見てくるガイドに愛想笑いを返してその場は終わりました。

そのやり取りがあった為か、それとも現地の職人たちとの契約があるのか、
その日ガイドは、頼みもしないのに銀細工の工房をいくつも回りました。

麻田君が、買い付けできるような色々な品を見たいと、注文を付けると、
ガイドたちは、そういう事なら、と、様々なバティック工房や市場、
観光地などをこれでもか、と言うほど巡ってくれたのです。
宿泊するホテルも、希望した通りのもので、外国人は麻田君だけ。
電話は交換手に番号を伝えて繋いでもらい、壁にはヤモリが這っていました。

収穫は十分、麻田君は満足して、バリ島を後にしました。

その後、ジャワ島に移動した麻田君は、手配してくれた田中さんと再会し、
バリ島での出来事を興奮気味に話したのです。

「いやあ。ドリアンは収穫してすぐなら、臭みが無くて美味しいですね」

「バティックの色の多彩さには驚きました」

「市場の買い物と、ホテルの電話オペレーターとのやり取りには苦労しました」

などと、話していくうちに、町で見かけた銀色のザルの話になったのです。

「インドネシアでは、銀細工があんなに流行ってるんですね。ほとんどのビルに銀細工の看板が掛かっていて、驚きました。これ、日本でも何か商売につながるんじゃないですかね」

それを聞いた田中さんは、大笑いしました。

「麻田君、ビルの屋上にあるのは、銀細工の看板じゃなくて
衛星放送のアンテナだよ」

インドネシアは、赤道直下にあり、衛星放送を受信するパラボラアンテナは真上に向けて設置します。

その為、日本のような鍋型では雨が溜まって使えません。
金属でできたザル型のパラボラアンテナを屋上にセットするのです。
屋上だから、大型のパラボラも置けるという訳でした。

「うわあ。会社に報告する前で良かった~」

ホッとした麻田君は、子供の頃見たテレビドラマの、
地球防衛軍の基地を思い出しました。

「なるほど。あれと同じだな」

そう思うと、なぜだか少し嬉しくなり、あの街が好きになったのでした。

             おわり



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