20241007 喉元過ぎれば全て忘れる
朝からなんとなく眠いなと思っていたらやはり雨が降った。久しぶりに低気圧に負けた気がする、天気予報を見ていなかったので傘を持っておらず濡れ鼠状態で帰宅した。なんだか調子が出ないと思っていた日に雨が降ると「やはりな」と思えるのに、調子が悪いから傘を持って行こうとはならないのが不思議だ。私は雨が降るたびに「なるほど」と思いながらずぶ濡れで街を徘徊している。
今日は昼にフードコートへ行った。イオン系列のショッピングモールに併設している「いわゆる」なフードコートなのだが、かなり広いと聞いて気になっていたのだ。
実際に訪れると、その敷地と店舗数に圧倒される。サーティーワンアイスクリームやミスタードーナツ、長崎ちゃんぽん。メジャーなハンバーガーチェーンは全て入っているし、さらにはちょっとした個人店まである。食にまつわる煩悩が全て詰まっていると言っても過言ではない。
普段ならケンタッキーか丸亀製麺を選ぶところだが、同僚が「ビビンバを食べたい」と言うので韓国料理屋で昼食をとることにした。
その韓国料理屋もフードコートにしては珍しく、厨房を見る限り本当に韓国出身の方が働いていそうな雰囲気がある。さすが大きな敷地を持っているフードコートは違うぜと思いながらメニューを見渡し、「激辛冷麺」を注文した。
私は辛味が好きだ。家では辛ラーメン、外では蒙古タンメン中本ばかり食べている。味というよりも、汗をかきながら「辛いなあ」以外考えられなくなる時間が好ましい。或る人は「サウナに入ることで人は暑さ以外考えられない赤ちゃんと化す」と言っていたが、私は激辛料理を食べることで舌の痛みのことしかわからないアメーバになろうとしている。
注文して程なく登場した激辛冷麺は、普通の冷麺に別添えで辛いオイルのようなものが乗せてあるだけだった。試しにオイルを少しかけてみる。やはりそこまで辛くない。
いくらレベルの高いフードコートと言えどこんなものか。若干がっかりしつつ、冷麺にドバドバとオイルをかける。真っ赤に染まったスープからゴムゴムした麺を取り出して一気に啜った。
!?!?!?!?!?!?
喉の奥からゴェ……と聞いたことのない音がした。
いや、気のせいかもな。うんうん、気のせいな気がする。もう一度啜ってみよ。
!?!?!?!?!?!?!?!?
寒い。
辛いとかではない、寒い。唇はヒリヒリと腫れて熱いのに、身体が震えている。
なんだこれは、新手の災害なんじゃないか。脳内で臨時警報が鳴り響く。辛いとかじゃない。暑くないのに口の中が噴火したかのように爛れている。お腹が痛いとかでもない、訳がわからない。意味もなく高くて速いジェットコースターに乗せられた気分だ。水を飲んでもまるで効かない。まさしく焼石に水、言うて。言うてる場合か。
泣きそうになりながら、それでも残すと午後の仕事が空腹でしんどいので懸命に口に運び、悶絶する。同僚も心配してドリンクを買ってきてくれた。中身も聞かずに奪い取って飲んだらコカコーラだった。なんで刺激物なんだ。カルピスが良かった。
カルピスで思い出した。乳製品。辛い時には水より乳製品が効く。そうだ、アイスだ。今すぐアイスが食べたい。顔を上げると「マクドナルド」の文字が目に入った。このまま店に駆け込んでいって機械から直接ソフトクリームを貪りたいところだが、言うまでもなくそんなことをするわけにはいかない。口が痛すぎて並んでいる場合でもないし、どうしよう。同僚にこれ以上私のパシリをさせるのも申し訳ない。焦った私は、急いでマクドナルドのアプリを立ち上げ「ソフトツイスト」をモバイルオーダーした。
人の少ない時間帯だからか、3分足らずで番号を呼ばれる。口が痛すぎて喋れないのでヘッドバンキングのような会釈で感謝を表現しつつ、ソフトクリームを手に取り、口に運んだ。
助かった。
口腔内の火事は、ソフトツイストによって鎮火された。
ありがとうマッククルーのお兄さん。ありがとうコカコーラを買ってきたトンチキな同僚。
5分足らずでソフトクリームを食べ終え、一息つく。血の池のような銀食器を見つめながら、「実はそこまで辛くなかった気もしてきたな」と思い麺を少しだけ口に運んでみた。目の前がチカチカした。