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ほやに思いを馳せる夏

美味いほやでクイッと一杯どうですか、ラインでサークルの先輩を飲みに誘ったのは大学3年の夏だったか。結局飲みに行ったかどうか記憶はおぼろげだ。4、5人ほどで居酒屋に行ったがほやは食べなかった気がする。

どういうわけが毎年8月頃になると無性にほやが食べたくなる。先輩を誘ったのもおそらく夏休み中のことだったと思う。

それでも昔からほやを好きだった訳ではない。小さい頃はよく両親や祖父母がほや酢を食べていた。当時はそもそも酢の物があまり好きでなかったし、海臭くて少し苦い味にどこがいいんだろうと思っていた。それが大学生になって海鮮の評判がいい居酒屋で美味しいほやを食べてから一気にはまってしまった。本当に美味しいものは臭みがなく、新鮮な牡蠣を食べたときのような海の香りがする。ほどよい苦味とほんのりとした甘さを感じる。歯応えもあって食感もいい。そしてびっくりするくらい日本酒に合う。そういうわけで今ではすっかりほやの虜になってしまった。居酒屋のメニューにあったら条件反射的に頼んでしまう。

一度、ほやを捌いたことがある。大学帰りにスーパーで見かけたのを、むきほやよりも味がいいだろうと考えて買ってきたのだ。海のパイナップルという別名もあるらしいが、見た目はかなりグロテスクで、「悪魔のイボ」の方がよっぽどしっくりくる。ネットを見ながらほやの殻と格闘する。すると突然ピューーーーーッッッと水が顔にかかってきた。包丁を入れる場所を間違ってしまったらしい。メガネが海水で濡れてしまって気持ちが萎えた。残念ながら手間をかけたのにそれほど美味しくなかった。海水まみれになってまでしたのに...と惨めな気持ちになった。

ほやならなんでも良いというのでなく、美味しいほやが食べたい。

ほやはもともと三陸を中心とした東北地方や北海道で流通しているようで、東京では地元ほど見かけない。あっても莫久来というほやとコノワタの塩辛がほとんどな気がする。8月頃に食べたくなるというのも、お盆休みに帰省をしたタイミングで食べることが多いからなんだと思う。今年は地元に帰るのを断念したので、美味しいほやを食べることができないのかと寂しい気持ちでいた。

しかし、思いがけず身近なところで美味しいほやに巡りあうことができた。近所で評判のよい寿司屋に行くと、おすすめメニューにほやという2文字が飛び込んできた。迷わず注文をした。どきどきしながら口に運ぶとそれは美味しいほやだった、感激。ビールの減りが早くなる。隣の隣のおじいさんも気に入ったらしくおかわりまで注文していた。しかも200円と安い。近々また行きたい。

帰省できないことに少し気持ちが沈んでいたけど、意外なところで夏を体感できて嬉しい日だった。

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