8バンドをやめよう
バンドの世界がお客さんを取り戻していくために戦略的に取り組まねばならないと思っている内容がいくつか有ります。777はそれを詰め込んだ興行であるのですが、特に今すぐ実践できて効果的であろう取り組みとして「8バンド以上の興行をやめよう」と言う物が挙げられます。
厳密には30分ステージ3バンドがベスト。4バンドがベター。5バンドが限界。という物です。
お客さんの心理として行くこと自体が損に感じる
まず、30分ステージ8バンドとなると、最初から最後まで見ておよそ360分。約6時間かかります。(厳密には転換は7回なので345分ですがそれでも十分長いと言えます)
人間疲労がたまってくると、疲労の方を優先して記憶するように出来ているため目の前でいい演奏があったとしても疲労に引っ張られて評価は下がります。
もちろん途中入場、途中退場もあるのですが、この場合最初から最後まで見ていない点が損として感じられるため、身体は疲れてなくとも金銭面で損したと感じます。
行動経済学:プロスペクト理論
この損の気持ちがなぜ不利になるか。行動経済学を例に引いた方が早いと思います。
例えば以下のような場合人はどのような行動をとるでしょうか?
貰える可能性としては2の方が大きな金額となるのですが、多くの人が1を選びます。
この場合は2番を選ぶ人が大多数となります。2万を得るか0円になるかと言えども1万は無条件で得たものですからお財布の損失は0であるにもかかわらずです。
以上の様に人間は損失という物をかなり大きく認識するように出来ています。
8バンドでは最初から最後まで見ても体力的な損を覚えるし、途中での入退場は見る権利を使い切っていないため金銭面で損を覚えます。つまり行くこと自体が損と感じてしまうため、どんどん客足が離れていく要因と機能することになります。
解決策
肉体的な損、そして最初から最後まで見る権利放棄の損を解消するにはどうしたらいいか。これはどちらも長時間に起因する損です。よって公演時間を短くすることでこの解消は可能です。
120分がベストとしているのは、1つには車の運転でも2時間に一度休憩をとった方がいい、という目安があります。それ以外にも映画を見る場合に当てはめてみて欲しいのですが、120分ぐらいの映画は気が楽なのですが、180分の映画はそこそこ気合を入れる必要があります。
あるいは家で360分、見たことも無いような映画を連続視聴しようと思うと相当な気合が必要です。が、100分1本ぐらいなら……外してもいいかなと思って視聴が可能ですよね。
座ってみるだけにせよ立って見るにせよ、人間疲労はなんだかんだで溜まってきます。疲労を感じ始める前に終わってしまう時間設計を心がけておけば少なくとも疲労によるマイナス評価を避ける事ができます。
さらに、最初から最後まで見るのが苦痛ではない時間を作れるのであれば、権利放棄の損も発生しません。少なくとも「疲れたから途中退場しよう」、あるいは「疲れるから途中から行こう」というようなネガティブな理由は排除できるようになります。
認知の問題
3バンドがベストというのにももう一つ理由があって、人間の認知として3と4、そして7と8の間にそれぞれ壁があります。
そもそも人間生き物として3までは無意識に処理が出来ます。前、右、左を常に認識できなければ、危険を回避するため、あるいは獲物を得るための行動に支障がでます。ですから3まではストレスなく処理が可能な数字です。
4から7はストレスを感じるけれども無意識でカウントが出来る数字です。自分はゲームデザイナーでもありますがゲームバランスをとる上でこの回数による心理コントロールは非常に重要な位置を占めます。
雑魚敵は3発まで。ボスは8回以上。あるいは雑魚の攻撃は8回以上耐えられるがボスの攻撃は3発耐えられない。といった大雑把な回数を元にしたストレスコントロールを用意し、それに従って各種パラメーターの数値計算を行っていきます。
3バンドがベストな理由も3バンドまではストレスなく認識が可能だからです。そして8バンドはもう最初のバンドを覚えていないと言う事に繋がってしまいます。
タイムテーブルは設計であり戦略
いかに優れた部品を使った製品であったとしても、設計が間違っていると何の役にも立ちません。いかに優れた製品と言えども戦略が間違っていればお客さんは増えません。
タイムテーブルは準備段階に相当するものですから出演バンド数は戦略として大きく機能する部分です。集客のではなくリピーターの、その後のお客さんに繋げるための戦略として、先細りではなく先を太くするための戦略として3バンドを強く推奨します。
バンドさんも、途中入退場が当たり前ではお客さんの広がりがありません。そもそもの話として、1割以上の途中入場、途中退場が有る時点で興行としてはおかしいのです。8バンドのライブであれば最初から最後まで見ているお客さんは1割未満であることがほとんどです。なぜそれが解るかと言うと、自分がその1割未満の客で、入退場の人数をカウントしているからです。
最後まで頑張ってみるお客さんがいたとしても最初の方に出たバンドは記憶が薄れ、最後の方のバンドは疲労から低評価を受けやすくなるような状況にわざわざ出るべきではありません。
そもそもバンドさんが8バンド以上の興行を選ばなければ、あるいは3バンドから5バンドまでの興行への出演を心がけていればここも淘汰されていくはずですので、ぜひバンドさん側のご協力もお願いしたい所であります。
それでも8バンドのイベントをやる理由
8バンドの興行に対して良くないと言う裏付けが無かったため、何となく出演されていた方は多いと思います。が出演の理由も興行の理由も、一番の理由はバンド数が増えれば増えるほど1バンドあたりの会場費が安くなる、という事かと思います。
しかし、それはただただバンド側の都合でしかないと思うのです。
我々の仕事、舞台の仕事、娯楽の仕事という物は「お客さんの心理の支配」です。心理は体調と不可分です。ゆえに、体調のコントロールを無視した興行は、娯楽としての成立がそもそも難しくなってしまいます。
また、お客さんはバンド単位で判断しません。イベント単位での判断を行います。3/3いいバンドなら面白いイベントだったと思うでしょうが、3/5いいバンドであった場合、半分ぐらいしか面白くなかったという評価を下してしまいます。
結果として、その時の支払いは良くとも後々の収益は下がって行ってしまいますし、そういったものを10年ほど積み重ねてきた結果が現状の衰退、お客さんが他の娯楽へと流れて行ってしまった現状を生み出しました。
ですから取り戻していくためには、とにかくお客さんの体調コントロールまでを視野に入れた設計をしていく必要がありますし、これは興行主の仕事であると思う所なのです。
お金を頂く以上は商売ですし、商売である以上、顧客満足度という物は非常に重要な要素であると思う所ですので、イベントを組まれる方は何卒ご検討いただけましたら幸いです。
主催イベント
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?