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歌が、人と世代をつなぐ歌声喫茶ともしび

#24

株式会社ともしび
代表取締役 齊藤 隆さん(2023.8.1)


歌声喫茶 ともしび は、歌を通じて人と人をつなぎ、歌を通じて世代をつなげる場です。経営理念 ~音楽や演劇の感動を通して「ともに生きあう」人間のあり方を伝える~ を体現する場でもあります。ピアノ奏者出身の齊藤社長は、自らを「歌声喫茶文化の継承者」と称します。演奏家であり経営者でもある齊藤社長に、ともしび の今と未来を語っていただきました。

歌声あふれる交流の場を提供 

――以前新宿にあったお店ともしび を閉店された後、この高田馬場でお店を再開されたと伺いました。お店の経営はどのような状況ですか?

齊藤 高田馬場のこの店舗は昨年(2022年)11月にオープンしました。まもなく一年が経ちます。お蔭様で毎日たくさんのお客さんをお迎えしています。開店前からお客様が「今か今か」とお店の前に並んで待っていただいているんです。本当にありがたいです。新宿店はコロナ禍でたいへんな災難をこうむりましたから。ようやくトンネルを抜け出したのかなと感じますが、お客様は以前の6~7割の回復なのでまだまだ厳しいです。

――実際にお店にうかがってみて、お客様の楽しそうな表情が印象に残りました。

齊藤 合唱のようにみんなで一緒に歌うことで仲間になれるんです。歌が共感を呼ぶんですね。それで顔なじみになったお客さん同士がお友達になって、誘い合ってご来店いただく場合もあります。ともしび は歌を通じた癒しの場、交流の場です。さまざまな歌をみんなと歌える。ここに来れば人に会えるし、楽しい。歌が人と人とをつなげているんです。

ともしびは歌を通じて人と人をつなげます(齊藤社長

 歌声喫茶文化を継承する決意 

――ともしび の歴史は書き物を読んで知りました。戦後の若い人の集いの場として発展したんですよね。 

齊藤 歌声喫茶ができたのは1954年と言われています。もともとはどこにでもある食堂だったそうです。たまたま人気のロシア民謡をBGMでかけていたらお客さんがみんなで歌い始めた。そこでアコーディオン伴奏も入れて、お客さんが歌える店を作ろうということになった。戦後の民主的な雰囲気も後押しして、歌声喫茶の人気が爆発的に盛り上がったんです。どのお店も連日超満員だったといわれていますよ。

ピアノ伴奏にあわせ、それぞれがリクエストした曲をみんなで合唱する
(歌声喫茶ともしびにて撮影)

 ――ともしび の店長も兼ねていらっしゃいます。店長のご経験は長いのですか? 

齊藤 店長になったのは新宿店のときから、もう13年です。実は店長になるまでは、私はピアノ奏者だったんですよ。お店でお客さんのためにピアノ伴奏をしたり、合唱曲を編曲したり、音楽の演奏家の立場から歌声喫茶に携わったのが始まりです。 

――どうして経営に携わるようになったのでしょう? 

齊藤 2019年に前のオーナーががんで亡くなったんです。ともしび を発展させた大先輩です。ともしび の火を消してはいけないと、私が経営を引き継ぎました。 

――演奏家から経営者にチャレンジされたのですね。経営を引き継ぐのは大変だったのでは? 

齊藤 大変さはともかく、私は純粋に歌声喫茶の文化をつないでゆきたかったんです。歌声喫茶は一般の人も参加できる文化運動という側面があるんです。そしてお店である ともしびは、文化運動の担い手ですね。長い歴史の中で育ってきた歌声喫茶という文化を引き継ぎたい、それが社長になってまず考えたことです。 

――コロナ禍で経営を続けるのは大変だったでしょう…。ご苦労も多かったと思います。

齊藤 ただ楽しむだけでは長続きしない。新宿店の閉店という苦しみも経験しました。でも人がいれば事業は成り立つ。経営は人づくりです。自分も今でもピアノ奏者として現場に関わりながら、若手を育成しています。現場の歌い手や奏者を大切にし、若手を登用することを大切にしています。

「平成生まれ、昭和育ち」が新たなターゲット

――高齢化社会が進んでいったときお客様はどうなっていくんでしょうか?

齊藤 歌声喫茶を支えていた団塊の世代がだんだんと年を重ねて80代に差し掛かかっています。この世代のお客様が高齢化しマーケットは縮小してくる。経営努力を続けてお客様の世代をつないでいかないといけないんです。
 
――世代をつなぐというのは?

齊藤 歌声喫茶の楽しみ方を次の世代に伝えていくことです。今の客層より下の世代、20代から50代の人たちですね。この世代に歌声喫茶文化をどう伝えていくか取り組んでいるところです。
 
――20代からですか?そんな若い世代の人はともしび で歌われる曲を知らないのでは?私は60代ですので昭和歌謡で育ちましたが。
 
齊藤 いえいえ、そうでもないんですよ。20代とか30代とか、今の若い人の中には、結構な割合で昭和歌謡が好きな層がいるんです。昭和レトロブームみたいなものもあるんだと思うんですけど。面白いでしょう?「平成生まれ、昭和育ち」と自称する若者達が結構いるんです。
 
――それは面白いですね!その世代に歌声喫茶文化を伝えるためにどんな取り組みを?
 
齊藤 たとえば、昭和歌謡を取り入れた新しい歌集を作ったんです。ユーミンとか竹内まりやの楽曲も収録されていますよ。僕たち世代にとってはすごく懐かしい楽曲ですよね。でもリアルタイムで経験していない若い人たちにも親しみを持って受け入れられているんです。どうやら昭和後期の歌謡曲は人を惹き付ける力があるんですね。昭和ポップスを愛好する若者のグループと交流したりもしています。

店舗を超えて歌声喫茶文化を広める ~オペレッタ劇団・出前うたごえ~

――次に事業展開について伺います。歌声喫茶というリアル店舗のほか、オペレッタ劇団や出前うたごえという事業も展開されています。
 
齊藤 オペレッタ劇団は1960年代に歌声喫茶ともしび の先輩達が文化創造の一環として作りました。全国の小学校、幼稚園そして保育園で公演を行っています。たとえば小学校の体育館を借りてやるような学校公演が多いのですが、それでも大人が観ても楽しめるしっかりした内容です。オペレッタはセリフと歌唱を組み合わせた歌劇でクラシックの一分野なんです。次の世代を担う子ども達に本物の歌の楽しさを伝えられるように取り組んでいます。

世代を超えて大人も子供も楽しめるオペレッタ劇団

――出前うたごえは、地方にいらっしゃる歌声喫茶ファンの方たちに大好評とお聞きしました。 

齊藤 実は若いときに歌声喫茶で楽しんだファンが全国にいるんです。そうした地方にいる歌声喫茶のファンから「私たちの地域でも歌声喫茶を出店してもらえませんか?」という声をいただくんです。そこでお店を出す代わりに、地方に出向いて行って公民館や音楽ホール、集会場を借りて歌声喫茶をやるんです。昔の新宿のお店を再現すると、美しい思い出がよみがえるのでしょう。本当にみなさん楽しそうですし、大盛上がりですよ。

会場いっぱいに歌声が響く「出前歌声喫茶」
大盛り上がりの地方公演

――面白いですね。全国のファンが歌声喫茶の出前を待ち望んでいるのではないでしょうか。

 齊藤 青春時代を東京で過ごしたあと、地方に戻っていった人たちも多いですよね。歌声喫茶で、青春を過ごした人が全国にいるんです。コロナ禍前では北海道から沖縄まで、年間200回ほどの公演をしていました。 歌声喫茶

文化を若い世代へとつなぐ架け橋に

――ともに生きあう、が ともしび の理念ですよね。この理念のもとこれからどのような事業を展開されるのか、とても楽しみです。 

齊藤 今の主要な客層に楽しんでいただきつつ、その下の世代に歌声喫茶の楽しさや良さをどう伝えていくかが課題です。いろんな世代の人が、ともに楽しめるような歌声喫茶にしてゆきたいですね。具体的な例ですと若い人中心に「パレット」というサークルを作ったんです。人数は15名くらいですが、最近このサークルから、二人がともしび の社員になり、二人が厨房担当やピアニストになってアルバイトとして働いてくれています。そこでこの若いメンバーと一緒にどうやったら歌声喫茶の仲間を増やすことができるか、新しいビジョンを考えているんです。 

――テレビ番組でも取り上げていましたね。若い人が、ともしび の担い手となりチャレンジしていました。 

齊藤 そうそう、ご覧になりました?番組で取り上げていたのがパレットという若者のチームのメンバーです。若い世代をどうやって取り込んでいくのか。一番の課題ですね。この5年が勝負だと思っています。試行錯誤を続けながら、しっかりと歌声喫茶という文化を継承してゆきます。 
※ 取材内容は2023年8月現在

(余禄) 齊藤社長にインタビューをさせていただいたとき、優しい表情で話しをしていただく中に、歌声喫茶ともしび の灯をつないでゆきたいという強い意志を感じました。新型コロナウイルス禍によって人々の交流が制約されてきた今だからこそ、人と人とをつなぐ、異なる世代をつなぐという歌声喫茶の役割が支持されるのだと思います。リアルな場での交流を大切にし、その灯りを燈し続ける ともしび の経営理念に敬意を表し、今後の展開に期待します。 (下村 博史)


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