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『スゴイツヨイトウフ』とびきり”変”なゲームの作り方【受賞者ドキュメンタリー第3弾】前編

■トモぞヴP (ゾウノアシゲームズ)
ゲーム開発人生の第一歩は工業高校の卒業制作(Unityを使ったアクションゲーム)。
就活苦の中で開発した「虚無そだて」が話題になったことをきっかけに、2019年に面白法人カヤックへ入社。現在に至るまで、ハイパーカジュアルゲームを中心にさまざまなゲームを開発。第1回GYAARConの開催が発表された日に「豆腐のゲームを作れ」という啓示を得て、「スゴイツヨイトウフ」の制作を開始。

「スゴイツヨイトウフ」は、豆腐が主人公のアクションゲームだ。なにぶん豆腐なので、高い所から落ちると崩れてしまうし、動物たちに食べられてしまう。これを避けるため、力を溜めて(チャージして)から、ジャンプや体当たりでゴールへと進んでいくのだ。食べ物である豆腐が飛び回る様には理屈抜きの愉快さがあるし、脆い食べ物であるという性質がゲームに活かされている。操作もシンプルで、誰にでも楽しめる良さがあるのだ。

 とにかく直感的な本作を手がけるのは、様々なゲームを作ってきたトモぞヴP氏。「シンプルなミニゲーム」という勝利の方程式を持つ氏が、「スゴイツヨイトウフ」で長編ゲームという新境地に挑む。その心中を聞いてみた。


■フラストレーションの中から作られた「虚無そだて」が、ゲーム開発者への道を拓いてくれた


――よろしくお願いします。まずは、お仕事とインディーゲーム作りのバランスについて聞かせてください。

🔸トモぞヴP:カヤックという会社で週4日ハイパーカジュアルゲーム(※)を作りつつ、残りの日で「スゴイツヨイトウフ」を作っている感じです。

※ハイパーカジュアルゲーム
スマートフォンで展開する無料ゲーム。ターゲットはゲームファンというよりは一般ユーザーであり、分かりやすいモチーフが選ばれる傾向が強い。

――ゲーム開発をするようになったきっかけはどういうものなのでしょう?

🔸トモぞヴP:ゲームを作り始めたのは、工業高校の卒業制作です。半年かけてチームでものを作るという課題で、「ロックマン」っぽい横スクロールアクションを作りました。これはUnityを使うようになったきっかけでもあります。その後「unityroom」(※)という投稿サイトに小さいゲームを沢山投稿し続けていました。また、1週間でゲームを作る「Unity 1週間ゲームジャム」というイベントにも第1回からずっと参加しています。

※「unityroom」
https://unityroom.com/users/zounoashi

※「Unity 1週間ゲームジャム」
https://unityroom.com/unity1weeks

――「unityroom」や「Unity 1週間ゲームジャム」、ハイパーカジュアルゲーム。小規模ゲームを素早く作って世に出すというところが一貫している感じですね。ビデオゲームの原体験について聞かせてください。

🔸トモぞヴP:親もゲームをする家庭だったので、物心付く前の2~3歳の頃からゲームをしてました。最初は初代プレイステーション用の子ども向けソフト「キッズステーション」シリーズのどれかだと思います。ゲームボーイアドバンスやニンテンドーDS、ゲームキューブといったゲーム機も、同世代の人と比べて早くから触っています。

――かなり早くからゲームに触れてきたんですね。

🔸トモぞヴP:遊んできたのは任天堂のゲームが多いとは思いますが、PSPにあったインディーっぽいゲームにもかなり影響を受けています。ずっと一人用のゲームばっかり遊んでましたね。

――高校卒業後はどうされていたんですか?

🔸トモぞヴP:就活をして、地元のメーカーからエンジニアとして内定をもらえました。ひとまず安泰だったんですが、「Unity 1週間ゲームジャム」の繋がりで東京に行った際、ゲーム会社が色々あることを教えてもらったことから内定を蹴り、ゲーム会社を目指してまた就職活動を始めたんです。

――内定を蹴ってゲーム会社を目指すというのも大きな決断でしたね。

🔸トモぞヴP:残念ながらこっちは上手くいかず、時間をもてあまして色々なフラストレーションも溜まっている時に「虚無そだて」(※)を作りました。発表後にTwitter(現X)で話題になったので「これは今しかない」と思って「誰か雇ってください」と呟いたら、カヤックに声を掛けてもらうことができ、そのまま就職することができたんです。

※「虚無そだて」
部屋にやってきた「虚無」を、画面タップで手に入れた「無」で育てる、スマートフォン用育成ゲーム。エンディングには、余暇に時間を潰してゲームを遊ぶことをメタ視した仕掛けがされている。
iOS
Android

――確かに「虚無そだて」はゲームの常識を破壊し尽くすようなゲームですよね。

ある日自分の元にやってきた「虚無」を育てる。やるべきことは画面をタップして「無」を手に入れるだけ。「虚無を見つめて、無を手に入れよう」なんて勧められるから、広告が流れるのかと思いきや、本当に何もない虚無の空間をしばらく眺めるだけ。

――フラストレーションから作られたゲームだと聞くと、凄く納得がいきました。お話を聞いていると、とにかく早く手を動かし、素早く行動することで道が拓けていったと感じられます。




――トモぞヴPさんの作品の中で、個人的には「最強列伝 時代走る」(※)でメタな仕掛けがされているのも印象的でした。「存在しないソーシャルゲームのスピンオフ」という設定のランゲームで、X(旧Twitter)アカウント(※)にはよくありそうな広告や“ありもしないイベントの告知”なんかが出ている。

※:「最強列伝 時代走る」
iOS
Android

※:存在しないゲームのX(旧Twitter)アカウント
https://twitter.com/saikyoretuden

🔸トモぞヴP:「虚無そだて」や「最強列伝 時代走る」の頃は、とにかくネットでバズりたいという思いだけで作ってたんです。広告については、同じようなものばかりだったのでカウンターカルチャーのつもりですね。作っているうちに自分でも面白くなってきてゲラゲラ笑っているんです。

――これまでのハイパーカジュアルゲームと「スゴイツヨイトウフ」、開発における違いはありますか?

🔸トモぞヴP:ハイパーカジュアルゲームはゲームを遊んだことがない、コントローラーさえ握ったことがない方々を対象にしています。それらと比較すると「スゴイツヨイトウフ」は作品としての側面が強く、明確に終わりを作って一本の筋が通ったものにしないといけない。ボス戦をどうしよう、レベルデザインには緩急を付けないと……ということを一人で考えてると、永遠に完成しないんですよ。僕はただですら割と悩みやすいというか、一回詰まったら立ち止まっちゃうタイプですから。

――これまで開発されてきたソフトと同様、「スゴイツヨイトウフ」もプリミティブな面白さと手ざわりの良さ、分かりやすい題材というところで一貫していると思います。個人的には豆腐を飛ばす手ざわりの良さや、クリア後に出てくるQRコードに豆腐をぶつけるとサイコロのように動いたりといったサービス精神が印象的でした。

🔸トモぞヴP:一番多く触っているのが任天堂のゲームだというところも大きいでしょうね。マリオやカービィが持つ遊びのエッセンスに影響を受けているんだと思います。

――企画を立てていく上では、直感で進めるのか、理詰めで考えるのかどちらでしょう?

🔸トモぞヴP:自分では理詰めだと思ってた時もありましたね。実際にハイパーカジュアルゲームを作り始めた際「世間ではこういうゲームが流行っているから、こういうゲームを作ってみよう」という作り方をしたり、作家性にかぶれて「カッコいいゲームやストーリー性のあるゲームを作ろう」ということも何回かやってみました。でも、ことごとく上手くいかなかったんです。逆に、何も考えていない時の方が、ゲームでクリティカルヒットが出るみたいに上手くいくことが多いですね。先日「Unity 1週間ゲームジャム」に出展した「決刀 -KETSUTOU-」(※)なんかがいい例です。東京ゲームショウが始まる前の3日間で無理矢理仕上げた「尻に刀が刺さった忍者が戦いまくる」というゲームで、既に1万人くらいの方に遊んでいただけてます。

※「決刀 -KETSUTOU-」
https://unityroom.com/games/tomozo202309

――何も考えていない時に受けるものが出てくるというのも不思議ですね。どういったところからアイデアが出てきたのでしょう?

🔸トモぞヴP:これは主催から「1ボタン」というお題が出た直後に思いつきました。以前に1ボタンゲームを作ったときの経験から分かるんですが、1ボタンでできるゲーム性って大体決まっているところがあって「ゲージをピッタリ止める」or「連打」のどちらかになってしまうんです。そのまま作ると大体同じようなゲームになってしまいそうだったので、「人の尻に刀が刺さってる」という絵面から発想を広げました。こういうひとネタが出てくる時って、何も考えていないところから唐突に現れる。「グラップラー刃牙」の郭海皇(※)が使う消力(シャオリー)のように、脱力しているところから受けるものが出るんです。

※「郭海皇」
板垣恵介氏の格闘マンガ「グラップラー刃牙」シリーズの「バキ」に登場する、中国拳法の達人。消力(シャオリー)という技法を用い、極限まで力を抜くことで打撃の威力を上げたり、受けた攻撃の威力を吸収する。

――何も考えていない脱力と、既に沢山のゲームを作ってきた知見が合わさり、ありきたりなものに陥る危険を回避することができたわけですね。

🔸トモぞヴP:逆に、理詰めで作ったら上手くいかなかった代表例がこの「進行中」(※)ですね。宇宙飛行士が色んな設定の中で飛びながら色々する……全然つまらない。受ける時とそうでない時の差があまりに大きいんですよ。僕が作って受けるやつって、だいたい何かギャグ寄りで操作が簡単なもの、「コロコロコミック」くらいの小学生男子にハマる位のギャグが一番ハマるんです。感性が小学生男子から成長していないんだなと思います。

※「進行中」
https://unityroom.com/games/tomozo202109

――小学生男子に受けるということは、年齢を問わない王道的なものがあるということなんだと思います。例えば「コロコロコミック」の「デカ杉デッカくん」というマンガは、とにかく背が高い小学生が出てきて、そのひとネタが面白いわけですし。

🔸トモぞヴP:「オレだけはマトモくん」なんかも、もう設定だけで面白いですよね。「ボケまくり町」というみんながボケる町があって、主人公のマトモくんただ一人がツッコミをする。これを毎月やっていて、理屈抜きで面白い。「絶体絶命でんぢゃらすじーさん」を描かれている曽山一寿先生のインタビューでも“ギャグの型”のようなものがあるんだという話をされていましたし。

――「バキ」の郭海皇のお話からちょっと武道っぽく表現すると、トモぞヴPさんの得意技は「小学生男子にハマる位のギャグ」「何も考えていない」という型から繰り出されるシンプルなゲームということになります。型があることについて、ご自身はポジティブに捉えているのか、そうでないのかどちらでしょう?

🔸トモぞヴP:型は結局あるんだなと思いつつ、たまにシリアスとかホラーみたいなものをやりたくなってしまうところはありますね。そうした中でも、絶対に同じモノだけは作らない、二番煎じだけはやらないというこだわりはあります。例えば「パワー土下座」(※)が受けたので「パワー土下座2」とか「テクニカル土下座」みたいなものを作ろうと思ったけれど、結局やらなかった。受けたパターンを使う勇気をもう少し持ってもいいような気もしますが、自分の中にどうしてもそれを許さないところがあるんです。

※「パワー土下座」
https://unityroom.com/games/saiyo

――お話を聞いていると、周囲の反応を重視するエンターテイナー的な側面が強いと感じられます。

🔸トモぞヴP:最近は、自分がひどく周りの人の影響を受けやすいというか、他人の機嫌にもの凄く左右されやすいところがあるんだと気づきました。自分の周りから不機嫌な人間を減らすために、笑えるゲームを作っているんじゃないかという気がします。「決刀 -KETSUTOU-」を作ったことで「結局、『コロコロコミック』のユーモアで戦うしかないんだな」ということが確信になりました。プリミティブな“第一歩目のユーモア”で戦うのが一番性に合っているし、それ以上踏み込んだものではない。

――なるほど。「スゴイツヨイトウフ」は"第一歩目のユーモア"だけでは作れない領域にも入っていそうですが、制作が辛いということはないですか?

🔸トモぞヴP:そんなことはないですね。すこし踏み込んだ面白さが必要なゲームではありますが、作品としての横スクロールアクションを完成させたいというのは一つの夢だったので、これを叶えるのは今しかないという感じで作っています。

(後編へ続く…)

※『後編』では、「なぜ、豆腐を主人公にしたのか?」「企画書の重要性」等をお話いただきました!

▼作品紹介:スゴイツヨイトウフ : とうふのアクション
とうふになれ。『スゴイツヨイトウフ』は、最高のとうふ体験ができる、2Dプラットフォーム物理アクションゲーム。
真のとうふになるため、ぷるぷるでハードな冒険に出よう。

steamストア:スゴイツヨイトウフ : とうふのアクション

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