プロローグ イノベーションのジレンマ

当社の次世代の根幹となる新規事業を考えて欲しいんだ。期待してるよ。

新規事業開発部への内示を貰った際、担当役員から掛けられた言葉だ。

これまでもクライアントから依頼されての商品開発・サービス開発は、数えきれないくらい携わってきたが、次世代に向けた新規事業を考えるとなると未知の世界である。
これまでは既存事業にちょっとした新しい視点の何かを追加したり、改良したりするレベルで問題はなかったし、それ以上の事を求められる事もなかった。
しかし、今回の担当役員から私に掛けられた言葉は、既存事業をベースにしたものではなく、全く新しい何かを生み出してほしいという事である。

期待されるとそれに応えたいと言う思うわけで、新規事業に関する様々な本を読んだり、ビジネススクールに通ったりしながら、この雲をつかむような業務に1年取り組んだが満足いく結果は得られなかった。

なるほど・・・これがイノベーションのジレンマか・・・

そう実感する事を多く経験した。

優良企業ほど陥りやすい「イノベーションのジレンマ」

私の所属する会社は創業から50年以上安定した成長を遂げてきた製造業で、3000人程の社員を抱える、いわゆる「典型的な日本型上場企業」だ。
ゆえに組織は成熟しており、既存事業を安定して回すスキルに関しては非常に高度なものを持っている。
ラインで製造される製品の不良率はとても低く、0.1%を下回るレベルであり、同じレベルの工場を全国に5つ、海外に3つ持っていた。

しかし、どんなに優秀な製造ラインを持っていても、その製造しているもの自体の需要が減れば売上は下がる。工場を稼働させる固定費は変わらないため利益は目減りし、最終的には赤字に陥る。

これを回避するためには、新たな需要に合わせて新しい商品を製造するか、製造だけでなくサービスの分野に進出する等、新しい需要に対応した取組を、既存のリソースを活用しながら進めていく必要がある。

しかし、この「既存リソースの活用」というのが最も厄介であった。

既存リソースというのは、これまで会社を支えてきた基幹となるリソースであるため、そこで生きてきた人達は「我々がこの会社を支えてきた。」という意識がとても強かった。

故に既存事業の根幹で活躍している人達に、新規事業の相談をしても反応も悪く、これまで自分たちが築き上げてきた輝かしい栄光を否定されるような気持ちになっているように感じられた。
彼らにとって新規事業開発とは「既存事業の否定」でしかなかったのだ。

クリステンセンが1997年に提唱した「イノベーションのジレンマ」とは、大企業にとって、新興の事業や技術は小さく魅力なく映り、且つ既存の事業を破壊する可能性があるため、結果新興市場への参入が遅れる傾向がある事を指しており、「これまで会社を支えてきた成功体験に対するプライド」という感情的要素が最も大きな阻害要因であることを実感した。

既存リソースを活用せず、新しいメンバーでゼロから立ち上げた方が新規事業を推進するスピードは速いと思い、そうやって進める事も考えたが、それでは既存リソースを活用せずに切り捨てる事になり、競争力を出せないどころか、旧世代と新世代による社内対立の火種になる事が容易に想定できた。

「典型的な日本型上場企業」が「次世代の根幹となる新規事業」を立ち上げるためには、「既存リソースの活用」という最も厄介な事から逃げられないのである。

K社長との出会い

そんな時、KMIのK社長と出会った。
K社長は大手広告代理店を経て、誰もが知っているような大きなプロジェクトや事業の立ち上げに数多く携わってきた方で、とある企業のプライベートセミナーで少し会話を交わした事をきっかけに、私が一方的(半ば強引に・・)にK社長のオフィスへ押しかけるようになった。

「イノベーションのジレンマ」に陥っていた私にとって、これまで多くのプロジェクトや事業の立ち上げに携わってきたK社長は、そんな私の悩みを解消してくれるヒントがを提供してくれる「救世主」のような存在となりつつあった。

毎回勝手に押しかけては、質問する私に対してK社長はいつも全力で答えてくれた。しかし話はとても難しく、一回聞いただけではその話の本質を理解する事は出来なかった。
だからこそ何か「奥深さ」みたいなものを感じたし、「既存リソースの活用」という最大の課題解決をためのヒントが得られる・・・という思いがオフィスを訪れるたびに強くなってきた。

KMIマーケティング塾

私は今携わっている新規事業開発に対しての指導をK社長へ正式に依頼した。
正直なところ、いつも全力で返してくれるK社長と仕事をする事は怖かった。
「K社長の全力に自分はついていけるのだろうか・・・」
頭に緊張と不安がよぎる。
仕事をだれかに依頼するのに、これほど緊張した事はなかった・・・。
しかし、緊張感と同時に、最大の課題が解決される事で、これから大きく成長するであろう会社と自分自身に対するワクワク感も沸き上がっていた。
K社長と私の「マーケティング塾」が始まった。

このブログでは、典型的な日本型企業の中で、新規事業を具現化していくまでの課題と解決方法について、筆者の経験と日々お世話になっている方々の知見を元に、物語形式でご紹介していきたいと思います。
注:このブログに記載している物語はフィクションであり、実在する人物ㆍ団体とは関係ありません。

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