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【AD.01】コンセプトワーク

個別業務としての新規事業支援とは別に、私が定期的に開催している勉強会にも是非参加してくださいね。

KMIのK社長と初の回打ち合わせの後にそう伝えられた。

KMIのオフィスは表参道の裏路地にある静かな住宅街の一角にある。オフィスも真ん中には多くても10名くらい、最適人数は6名くらいが座れる大きな長テーブルがあり、テーブルの長編の真ん中にいつもK社長が座っている

社長が座る椅子のうしろの壁には、A1サイズの模造紙が5枚ほど貼れるスペースがあり、その模造紙にはその時K社長が注目している様々なテーマについて、ご自身の考えを体系化した図やワードがびっしり書かれている。

K社長が主催する勉強会に参加する方々は多種多様で、誰もが知っている大手企業のマーケティング担当者から、ベンチャー企業で働く若手技術者、現役大学生といった方々がこのオフィスに集まり、K社長が設定したテーマに沿って自由なディスカッションが繰り広げられていた。

今回のテーマはコンセプトについてです。
皆さんに質問しますが、「コンセプト」とは一体何ですか?

そう言われてみると明確な答えを私は持っていなかった・・・・
・進むべき方向
・その事業の根幹となる思想
・そもそもコンセプトとテーマってどう違うんだろう・・・

コンセプトとは何か?

アメリカの社会学者であるタルコット・パーソンズは「コンセプト・サーチライト論」を提唱する中で「コンセプトは、新たな思考形式だけでなく、新しい変数や属性の組み合わせをもたらす。」言っています。

「新しい変数や属性ってなんだ・・・・今コンセプトの話をしてるんだよな・・・・統計の話じゃないよな・・・」

困惑する私の顔を見て察したのか、K社長はわかりやすい事例で説明してくれた。

自動車のコンセプトは、最初「①エンジン、ボディ、タイヤ、シートなどの部品などの物質属性」をベースに考えられていましたが、そこに「②速度、安らぎなどの機能属性」の新しい変数が加わり、さらに「③感覚的属性やデザインイメージなど」が加わっていくことにより、革新的な「自動車」の新しいコンセプトが生まれてきたわけです。

なるほど・・・・最初はエンジンがロータリーだとか、V6だとかが売りになっていたのが、いつからか「静かさ」や「加速性能」といった機能が売りに加わり、自分が免許を取ったころは「シルビア」とか「セリカ」とか、とにかくデザインがカッコいい車であることも、車選びの重要なポイントだったことを思い出した。

コンセプトと属性は、つまり概念と経験的な世界の間には、絶えず相互作用があります。アイデアとコンセプトと理論(モデル)の関係性を図で表すとこのようになります。

コンセプト図解2

コンセプトとは、複数のアイデアが結びついて生まれるものです。
アイデアの背後にある文脈や、アイデアを具現化する為の段取りや枠組みが含まれる中で、複数のアイデアが結びつくなどして、実際に理解できるレベルのものになると、それがコンセプトと言えます。

車の事例紹介が最初にあったためか、この話を聞いた時、学生の時大人気だった日産シルビアが頭に浮かんだ。

シルビアは、私が社会人になったばかりの頃に大人気だった若者向けのクーペで、コンセプトが「若者のデートカー」だった。
当時はバブルで、更に団塊Jr世代が社会人になり始めた時期でもあったため、初任給をつぎ込んでマイカーを手に入れることがステータスだった。

シルビアのデザインはスタイリッシュでカラーバリエーションも多め。運転席と助手席は広い分後部座席は狭く、基本2人乗りを想定されていた。
スピードも加速性能がそれなりに良く、ターボ付きのグレードは特に人気だった。そして価格は若者でも手が出せる200万円台という、まさに「若者のデートカー」というコンセプトを見事に具現化した車だった。
逆を言うと、40歳代の家族連れには全くふさわしくない車でもあった。

最初にシルビアのコンセプトを考えるにあたり、当時の日産の人達は、団塊Jr世代を観察しながら様々なアイデアを出し合ったのだろう。

「ターボがないと売れない」とか「カラーは派手で目立つ方が良い」とか「デザインはスタイリッシュで、運転しやすい事より見た目を重視」とか、そんなアイデアを色々出し合っていく中で、「団塊Jr世代をターゲットにするならデートカー」というコンセプトに行き付いた様子を、自分の頭の中を勝手な妄想で巡らしていた。

コンセプト・サーチライト論

ここまでのK社長の話を聞く中で1つの疑問があった。
「コンセプト策定のためのアイデア出しを行う際、ターゲットをある程度絞っておくことって重要なのですかね。」

そうですね。それが属性の事で、コンセプトサーチ論では照らす属性と係数によって浮かび上がってくる潜在的メカニズムは変わってくると解説しています。

コンセプト図解

私はこの話を聞いて2つの点に気が付いた。

1つ目は、何をどのように照らすかによって、見えてくるものは変わる。
絶対的な答えというものはないという事。

2つ目はサーチライトで照らさない部分もあるという事。サーチライトをあえて絞ることで、一定の方向性でアイデアを出し合う事につながる。

よく会社で新規事業のアイデア出しをする際、「その答えは正しいのか?」「抜けがないよう全ての視点を入れよう」という事を毎回言う人がいる。
私はそれに対して大いなる違和感を持っていたが、その違和感をうまく説明する事ができずにいた。

しかし、今回K社長の説明は、この違和感に対する答えでもあった。

K社長の話は続く

コンセプトは、単なる概念ではありません。
範疇・類型ではなく、私たちに観点の変化をもたらすもの。新しい観点で、現実を切り取る、道具の役割を示すものです。
新しい観点や洞察の言語が含まれていることが「コンセプト」なのです。

多くのアイデアをきっかけとして、「若者のデートカー」のような新しい視点が言語化される事により「シルビア」のような斬新な商品が生まれる原動力となったように、1つの答えを見つける事や、抜けがない議論をすることが目的ではなく、
新規事業のコンセプトとなる新しい観点を発見する事が目的なのだ。

コンセプト創造の方法論

ではどのようなステップを経てコンセプトを創造していくのか。その方法論をご紹介しますね。皆さんもやってみてください。

そう言ってK社長は新たな模造紙を壁に張り出した。

コンセプト図解3

やばい、、、、わからない言葉が多すぎる、、、
周りを見渡すと他の参加者も私と同じような気持ちの顔をしていた。

「すみません、アブダクションってどういう意味なんでしょうか。」

最も謎な言葉について私はK社長に質問した。

「アブダクション」とは、理解できない物事を理解するために仮説を立てて推論する考え方の事です。
様々なものを観察する中で、そこから推測されるその背景や物語の仮説について対話することで、意味や事象の背景にあるメカニズムを理解するために必要なプロセスなのですが、日本の企業が最も苦手な事でもあります。

K社長の話は続く

方法論についてはこれから個別に説明しますが、
最も重要な事は新規事業開発に関わる人は、最初からすべてのプロセスに関わる事です。
様々な立場の人達がアイデアを出し合い、それを概念化し、モデル化し、実践化していく中で、多くの関係者が共感できるコンセプトワークが可能になるのです。

何故、現在私が進めている新規事業開発が進まないのか、、、
その理由を1つ理解した。
そもそも新規事業を企画する際、「既存リソースの活用が課題」とわかっていながら、そこに関わる人達を巻き込んでいなかったのだ。

今日のこの話を聞くまで、新規事業開発は担当者である私と私の所属する部門の責任において、我々で完結しなければならないと思っていた。

しかし、それは間違いだったと気が付いた。
「既存リソースを活用した新規事業開発」を推進するためには、既存リソースに関わっている人達を最初から巻き込んでおかなければならないのだ。

じゃあ、細かいプロセスについて説明していきますね。一通り説明したらみんなでやってみましょう。

K社長の解説を傾聴しメモを取る手にも力が入った。

AD.02へ続く


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