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第一巻 工場街育ち 10、グリコとカバヤの景品で育つ

10、グリコとカバヤの景品で育つ

※この小説は、すでにAmazonの電子版で出版しておりますが、より多くの人に読んでいただきたく、少しづつここに公開する事にしました。

 うちはかなり貧乏だったが、子供はそれなりに工夫して生きていくものだ。何か高価な物を母親にねだる時にはそっと母親の顔を覗き込んだ。無理そうな顔をしている時はいつも諦めていた。俺は、母親に「子供はお金のことなんか心配するな!」と、言ってよく叱られた。そうはいわれても、俺はかなりの母親っ子だったから、母親にもっと小遣いをくれとは言えなかった。母親の懐具合はよく知っていたので、あまり甘えてはいられなかった。

 そんな中で、カバヤとグリコのキャラメルにはずいぶん助けられた。カバヤのキャラメルにはサービス券が入っていて、これを二十四枚集めると『少年』という当時流行っていた月刊誌がもらえた。付録のたくさんついたこの月刊誌は、俺の小遣いの1か月分くらいはあったので普通には買えなかった。このカバヤのサービス券には、いくつか種類があって、二枚券や五枚券や二十四枚券というのがあった。特に二十四枚券が入ったキャラメル箱は、百個入った大箱にたった一箱しか入っていない。俺はこの箱を見つけるのが得意だった。このお宝のキャラメルは、いつも大箱の右下の底の方にあった。大箱が開けられた時は、一目散に駄菓子屋に行ってキャラメルを買った。それでも二十四枚券の入ったキャラメルを当てることはかなり難しかった。これを当てた時は嬉しくて、直ぐに本屋に直行して『少年』を手に入れた。いつも見せてもらっていた友達にも、今度は胸を張って貸してあげた。

 グリコキャラメルの景品はそれ以上に、嬉しかった。グリコのおまけ付きキャラメルはとても有名で、小さなおまけがついている。でも俺の関心はそこにはなかった。これにはカバヤのキャラメルのようにサービス券が入る時があった。グリコはよく色々なキャンペーンをやっていた。例えば、天体観察キャンペーンなんてのがあって、景品は凄くて反射望遠鏡からデカイ屈折望遠鏡や双眼鏡まであって、サービス券の枚数を集めれば必ずもらえた。抽選ではなくて必ずもらえるというのはとても励みになっていた。もちろん、反射望遠鏡などはとても枚数が多くてダメだったが、長さが1メートル近くある屈折望遠鏡なら手が届いた。もちろん、これら景品は、市販の凄いものではなくてグリコが特注して作ったのだろう、プラスチックや厚紙で作った物でけっして高級品ではなかった。でも本来の役目を果たすには十分で、そのことが凄かった。グリコは、ずいぶん知恵を絞ったのだろうが、そこにグリコの誠意というか熱意があるような気がした。グリコは、明治や森永のような大手ではないが、出している製品には人気商品が多いし、熱い情熱を感じる。俺は頑張って1メートルを超える屈折望遠鏡をやっと手に入れた。景品は、集めた券を郵便で送れば、しばらくして小包で送ってくる。初めの頃はそうしていたが、この望遠鏡の場合は何しろ早く手に入れたかった。聞けば、グリコの工場が蒲田にあり、そこでは集めた券と景品を交換してくれるらしい。しかも、自転車で二時間ほどで行けるという。俺は、友人数人とこの工場まで行って、デカイ望遠鏡を背中に担いで帰ってきた。本当に嬉しかった、親にはとても欲しいとは言えなかったし、それを自分の努力で手に入れられた事にとても満足していた。お月様が五百円玉くらいに見えて、表面のあばたが見えた時はとても感動した。だが、俺の望遠鏡に対する興味はここまでで、直ぐに別なものに移ってしまった。同じように、グリコの景品で顕微鏡などももらって、ミジンコやいろいろな微生物も覗いていた。しかし、子供の関心は移ろいやすいものだ。俺の関心はすぐに別のものに移っていった。結局、俺は景品程度のもので十分だったということなのだろう。


グリコ様 我が青春の宝物 オマケでもらった 望遠鏡

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