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第一巻 工場街育ち  5、山の手の子の遊び

5、山の手の子の遊び

※この小説は、すでにAmazonの電子版で出版しておりますが、より多くの人に読んでいただきたく、少しづつここに公開する事にしました。

 中学に行って、山の手の子の家に招かれたことがあった。同じ遊びでも、工場街の子と山の手の子供では遊び方があまりに違うので、ショックを受けた。池上本門寺の山周辺で戦闘水雷、又の名を水雷艦長という鬼ごっこをやった。全員にトランシーバーが配られて、味方同士は連絡しながらやるのだ。その時俺は、トランシーバーの存在、つまり何に使うものなのかさえ知らなかった。使い方はすぐ覚えて慣れたが、当時めちゃくちゃ高価だったトランシーバーを何台も遊びのためだけに使うということに、ショックは大きかった。同じ鬼ごっこでもえらく違うなあというのが俺の印象だった。その後、鬼ごっこに疲れて部屋で遊ぶことになった。オモチャのでかいバスが隣の部屋からガタガタいって来た。コードも何もついてないのに勝手に方向を変えて自在に動き回る。これがラジコンカーだというのは、後で知った。「おまえ、ラジコンカーも知らないのかよ?」という友達の声は遠くに聴こえた。おやつは、ドーナツだというので嬉しかった。「『不二家』のか、それとも『うえむら』か?」と聞いたら、「ドーナツは、母親が作るんだ」、「あんなものは、自分のうちでできるものなのか?」、「馬鹿だなあ、家で作った方がずっと美味いよ」。確かに、良い油で揚げて、粉砂糖のかかったドーナツは、暖かくて、今まで食べたこともない様な美味さだった。家に帰って母親に、「うちでもあんな美味いドーナツは出来ないのか?」と、母親に言ったら、「バカ、そんなものできる訳がないだろ」の一言だった。金持ちの家は食い物が違う、俺はその時思った。

 ラジコンや トランシーバー 初めてで おやつがトドメ 手製ドーナツ

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