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放浪記

放浪記(1962年 成瀬巳喜男監督 出演:高峰秀子 田中絹代 宝田明 加東大介等)


「放浪記」と言うと大半の人は森光子がでんぐり返しする場面(舞台版放浪記)を思い浮かべるようですが、今回紹介するのはでんぐり返しじゃない方の映画版「放浪記」です。


今作は林芙美子の自伝的小説「放浪記」が原作です。古典文学にありがちな貧しいながらも清く正しく健気に頑張る主人公は出てきません。主人公ふみ子は猫背で近眼、いつでもつまらなさそうな表情で、生意気だから仕事はすぐにクビになるし、何かと彼女を気に掛ける優しい男には目もくれず、甲斐性のないイケメンについていっては捨てられる。そりゃ貧乏になるよと言いたくもなります。正直言ってかわいくない。

そんな主人公に共感なんてするのかと思うでしょうが、彼女の持つ醜さ含めて人間臭さ(生活臭?)というのは歳をとれば誰しも多少は身につくもので、だからこそ嫌な女だなと思いつつ目が離せないんだと思います。

ふみ子の人柄がよくわかるシーンがあります。夕食は洋食にしましょうよ!とねだるふみ子に原稿が書けずイラつく夫、福地は「明日の金がなくなるだろ」と突き放すとふみ子は鼻歌交じりに「だーいじょうぶよぉ。明日は明日の風が吹くのよぉ」と居に返さない。すると原稿料が振り込まれました、とタイミングよく封書が届き、ふみこは「ねっ、なんとかなったでしょ」とにやっと笑う。この今を生きるスタンス(もちろん陰で原稿を持ち込んだり努力はしていますが)が彼女の強さなのだとわかる場面です。(そのしたたかさが鼻について夫に殴られちゃうんですけどね・・・)

悲惨な環境でも彼女は死には向かわずひたすら食べて呑んで恋をして、そのすべてを書いて消化して、自分の生き様で稼いで生き続けた。その地から湧き出るようなエネルギーは現代の私達(特に女性)に勇気を与えてくれるはずです。


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