蒼桐大紀「凪の海のマナ」感想
「文芸くらはい」はシロート読者・春Qが文芸作品を読んでアレコレと感想を書く企画です。感想を書いていい作品は絶賛募集中。詳細はこちら。
来週9/27の「文芸くらはい」は引っ越し作業のためお休みします。
◇「凪の海のマナ」あらすじ
南の島に転校してきた主人公・奈緒美。島の公用語である英語に馴染めず、学校でひとと話すのがすっかり怖くなってしまった。
ひとりで海を見ていると、顔見知りの女子から声をかけられる。奈緒美は彼女を「本条さん?」と呼ぶが、彼女はマナと名乗った。
マナの雰囲気に誘われ、奈緒美は自分のことを話し出す。途中から会話が英語に変わっているとも気づかずに話し続け、マナに指摘されて驚いた。
打ち解けた二人はその場で少し話すが、ふとした瞬間にマナは姿を消してしまう。後に奈緒美はマナの噂を聞いた。ひとりぼっちの子供がいたら話し相手になってくれるのだという。奈緒美はもし自分と同じようにひとりでいる子がいたら、今度は自分がマナになろうと決めた。
作者・蒼桐大紀さんのプロフィール記事はこちら。
作詞家さんもやっていて、カラオケでも何曲か配信しているらしい。
ヒャッホーッ、東方アレンジだ~!!
ほか、コンテスト受賞作品のリンクもまとまっているので読みましたが、春Qの好みは、過去作リポストで見たこっちのお話のほうですね。
読みやすい。わかりやすい。これは共同執筆企画参加作品でまーちんさんという方が別口にプロットを作っているのですね。
プロットに書かれた結末は「主人公は告白しようとするのだが、幼馴染に止められ、免許取ったばかりで高速がまだ慣れていないのでサービスエリアに入ってからにしてほしいと言われる。」という現実的エンドなんですが、いい感じに読み取って胸きゅんに仕上げているところが良かったです。
ほかpixiv掲載作品も何作か読み、悩みを抱えた女の子が女の子から救われる話を定期的に書いているのだと察しました。今作「凪の海のマナ」も、その流れのうちの一作ということになります。
文体はしっかりめ。1000字弱と短いお話ですが、悩んでいた奈緒美がマナとの関わりで希望を取り戻す筋はちゃんと読み取れます。ただ、話の核となる日本語と英語の切り替えについては、読んでいて(本当にそんなことあるか?)と思いました。
いえ、実際にこういうことがあるのは確かなんですけれども。たとえば春Qの姉は、高校生の時に1か月ほどカナダにホームステイへ行きました。我が姉は英語のテストで3点を獲ったことのある猛者です。勢いで海外に飛び出したはいいが、英語ぜんぜんわかんない。しかし環境には慣れるころには夢まで英語になってしまい、起きてからびっくりしたという・・・。
春Qは姉からそういう話を聞いたことがあるからわかる。でも一般的な体験かというと違うのだし、この状況を話として成立させるならここに来て1か月、もう目にする看板からテレビ番組から鳥の声までぜんぶ英語英語英語!意味わからんっシヌッ!!・・・くらいに奈緒美の生活環境を明らかにしてもいいんじゃないかと感じました。(太字は春Qの姉談)
それくらい英語漬けにさせられていると印象づけられれば、消極的に生活していてもサブリミナル効果が発動するのだなー!という納得感があったと思う。そこまで凝る必要もないとしても、島に来てどれくらいの月日が経過しているのかという情報は読者に開示しても良さそう。
◇銭天堂?六番目の小夜子?
奈緒美の悩みは解決したけれど、マナの位置づけがよくわからなかった。島に伝わる精霊的存在なのか、本条さんという現実的な知り合いなのか、どちらなのだろう。根拠と疑問点を整理すると以下の感じになりますが…
※春Qは、本条さん=日本人学校のクラスメイトという認識でいます。ひとと関わらない奈緒美が知っている相手なので、順当に・・・。
前者の読み方でいくと、このお話は人ならざる者と人間の交流を描いたお話ということになります。銭天堂みたいに不思議なものにふれて人間が成長するお話。
後者の読み方でいくと、人間同士の相互扶助を描いたお話ということになります。少し古い作品ですが、六番目の小夜子はある高校で継承され続けてきた「小夜子」をめぐる青春ホラー。学生が小夜子を受け継いでいくのと同じように、本条さんがマナを演じ奈緒美がその役割を継承するお話。
ただ、本作の結末で「ここに来た誰かが一人だったら、私がマナになろう、と」奈緒美が心に決めています。つまりマナはなろうと思えばなれる存在(=後者)なのでしょうね。ひとりぼっちでいる子供に親切にするきっかけみたいなものなんだと思います。
◇うがったものの見方
作者がチューニングするために書いた作品なのかな?と思いました。「凪の海のマナ」がpixivとnoteに投稿されたのが2024/8/19、pixivではその直前に過去作品の再掲載がドドッと行われている。
いろんな企画やコンテストに参加した後、改めて自分の成果物を確認⇒再検討し、好きなテイストの作品をショートショートとして書いたのかなーなどと思いました。なんとなくスケッチっぽいのですよね。
で、そう思って読むと次に投稿された作品が、染みるんですよね・・・。
これはpixivに2024/7/24に投稿された作品の再掲載なのですが、まあ、こういう文章があって。
フィクションですけど。「とりあえず一曲弾かないと」そういう思いを持って創作に臨んでいるとすれば、「凪の海のマナ」のような作品が出てくるのもうなずけるなぁと思いました。
次回の更新は10/4の予定です。
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