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【読書】奥田英朗の 罪の轍 を読む


罪の轍
奥田英朗
2019年8月20日発行

古い話しなのに何故か惹きつけられる物語りであり、時代描写だった
とても良い

TOKYOオリンピック2020を前にして、
昭和39年の東京オリンピックが始まろうとしている頃の時代の犯罪はどんなだったかを描いている
実際には知らなくても懐かしさだけは感じる昭和のムード

北原みれいの石狩挽歌の唄に乗せて物語は始まる
当時はニシンが獲れなくなった時代で、今はサンマが摂れなくなったところが似ているかもしれない
東京オリンピック2020が開催されたのは2021年だったし、犯罪環境も大きく異なってきている
2021年のオリンピックでは広告業界の恥を晒した元電通役員などによるコンサルタント費用の搾取などの卑劣な不正が中心だった感はある

当時、悪質な犯罪として流行っていたのは身代金目当ての誘拐事件
黒澤明の 天国と地獄 から模倣犯もあったという
家庭に電話が普及すると伴に広がったともいわれる
今、家庭電話は詐欺電話の基盤となっている
スマホの普及で広がったのは国際ロマンス詐欺くらいだろうか
身代金目当ての誘拐事件は携帯電話の普及とは連動したように思えない
むしろ位置情報が備わってからは、犯人が危険を感じるツールだろう
しかし敢えてスマホを誘拐事件のツールに使うアイデアがSNSで話題を呼べばきっと模倣犯はたくさん出てきそうだと思う
そんな小説を書く輩も出てくるのではないだろう
要はまとまった金を金持ちから出させることだけ考えて、犯罪だろうがなんだろうができるならやってみる方法を実行したという犯罪の事例だ
目の前のできる事をしてしまう犯人
そしてそれをしてしまう人間はどんな特性があるのか

吉展ちゃん誘拐事件と
浅草のレッサーパンダ帽を被った男の殺人事件を足したような物語で、犯人は脳に障害がある男だ
犯人が5歳の時に水商売をしていた母親の男はヤクザ崩れだった
実の父親ではないが当時の父親になる
高級車が通ると子供を道路に突き出して怪我をさせる当たり屋をさせられた
腕を骨折し、肋骨を骨折し、6歳の時には頭を強く打って記憶障害になった
その犯人が6歳の子供を誘拐して殺したのだ
そして身代金の要求をした
テレビでの報道は加熱し全国から注目された
警察も国会議員も芸能人も経済人もテレビで誘拐された子供を返すように訴えかけた
そういう時代だった
検事に尋問された際に、霧の彼方に霞んでいた子供の頃の記憶が取り戻され、その時の父親を殺して復讐をしなければならないという明確な目的ができた
自白を少しづつ始めの、現場検証の際に逃走する
目指すのは父親のいる札幌だ
逃してしまった警視庁も追う
上野発の青森行き夜行列車だ
すべてに昭和のにおいがする
青函連絡船の乗り場で発見
逮捕劇がある
最後のシーンは、誘拐されて殺されてしまった男の子の葬式だ
警視総監まで弔問に訪れるなどテレビを見て心配していた人は、我が事のように多くの人たちが弔問した
被害者の家庭がどれだけ報道によって苦しむことになったかという点もテレビの普及し始めた時代から、それまでとは大きく変わったところで今でも似たような状況ではないだろうが

犯人の人物像としてはどこか憎めない可哀想でもあり無邪気でもあり、おいおいダメだろ〜なんて言いたくなっちゃう感覚になる
電話やネットで詐欺をするような悪質な感じがしない
ましてや 電通さんのおかげでオリンピックの聖火ランナーとして走れましたなどと笑うAOKIの会長などとも かわいげが違う
あらためてタチの悪い時代に突き進んでる感を受ける

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