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TRPG支援ブックトーク補完計画

このnoteは、2021年6月26日に実施した
図書館総合展2021 連続フォーラム第2回 フォーラムin酒田での

■ クトゥルフ神話TRPGシナリオ作成支援ブックトーク
オマエたちはまだ本当の大阪を知らない!そして酒田市Ver.へ…

の内容を補完するために作成しました。

発表者は組織に属してはいますが、このブックトークに関しては個人として活動しています。各種の見解や意見もそれに基づくものです。念のため。

ブックトークについて

このブックトークは、1920年代の大阪を舞台にした新クトゥルフ神話TRPGのシナリオ作りを支援するために、当時の大阪の事がわかる資料を紹介するというものです。

ただ、酒田市がホストであること、オンラインでのブックトークであるため大阪以外の街を題材にしたシナリオを作りたいという方もいらっしゃると考え、実際のブックトークでは大阪の細かい情報は省略して実施しています。

ここではブックトークで実際に紹介した資料と、以上の事情から紹介しなかった資料について記したいと思います。

図書館の所蔵がわかることを優先しNDLサーチへのリンクとアマゾンへのリンクを掲載しています。NDLサーチのリンク先には所蔵している都道府県・政令指定都市の図書館名が書かれています。地元の図書館がリンク先の所蔵館のところになくても、あきらめないで地元の図書館に尋ねてみてください。見つかるかもしれません。

クトゥルフ神話TRPGの
シナリオを作る時に、広く有用と思われる本

クトゥルフ神話TRPGなので、不思議な現象や事件など、実際にあったものを題材にしたいと思うことがあるかもしれません。大阪限定ではなく、超常現象と事件に関するレファレンスブックを2冊紹介します。

まずは『超常現象大事典』。

個人的にお気に入りの一冊。UFO、心霊研究、ニューエイジ運動など分野ごとに項目を集めて紹介している。大人版『いる?いない?のひみつ』みたいな感じ。

『事件・犯罪を知る本』

高橋お伝事件から秋葉原通り魔事件まで、事件に関する書籍を紹介する。一つの事件を深堀りする時に使えます。

ちなみに、事件について調べる時、もっとマイナーな傷害事件や殺人事件を調べてみたいと思うこともあると思います。朝日新聞の記事データベース「聞蔵Ⅱ」(「きくぞう」と読む)が使える環境なら、わりと探せるかもしれません。

このデータベースは文字通り朝日新聞の記事を読むことができるもので、大きく1985年以降の記事の本文検索までできるものと、1879年から1999年までの縮刷版の記事を検索できるものがあります。今回は1920年代なので、縮刷版の記事を検索できるモードを使います。
この縮刷版の記事には大分類と中分類という二つの分類が付与されています。それを指定すると関連記事だけをみることができる。例えば当時の陸軍に関する記事なら
大分類:外交・軍事
中分類:陸軍
と指定すればOK。殺人事件なら、
大分類:災害・事件・事故
中分類:殺人・傷害
と指定すればOKです。たくさん記事がでてくるので絞り込みが大変かもですが…

ブックトークで紹介したデータベース

以下はブックトークで実際に紹介したデータベースです。

国際日本文化研究センター「所蔵地図データベース」

ちなみに国際日本文化研究センターは他にもたくさんのデータベースを公開しています。楽しいよ!

国立国会図書館デジタルコレクション

国会図書館デジタルコレクションの検索でヒットした中には、
・国会図書館の承認を受けた公共図書館・大学図書館に行かないとみられないもの
・国会図書館に行かないとみられないもの
があります。詳しいことは以下のリンク先から。


大阪市立図書館デジタルアーカイブ

大阪市立図書館のオープンデータに関しての取り組みは以下のリンクから。

大阪市立図書館のデジタルアーカイブの画像はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを示しています。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスについてはこちらも要チェックです。


酒田市立図書館/光丘文庫デジタルアーカイブ

ちなみに私設図書館については『LRG:ライブラリー・リソース・ガイド』という雑誌の28号に詳しい特集があります。

新庄デジタルアーカイブ


『モンタヌス日本史』

「帝国の一大市にして、Quiooの領域の首府なり・・・
市の中央にはKanonの偶像をもって有名なる殿堂あり
日本人はKanonを以て
水中に棲息する各種の魚鳥の上に絶対的の力を有すと信ぜり
Kanonは彼らのネプチューンすなわち司海神なり」

ブックトークの冒頭に記した上記の文章は『モンタヌス日本史』に書かれている大阪を紹介した一節からの引用です。和田萬吉による訳を一部改変(「観音」を「Kanon」にしました。なんか雰囲気出るかなと思って)しています。『モンタヌス日本史』はアルノルドゥス・モンタヌスさんが書いた日本を紹介した書物で、1669年に刊行された『東インド会社遣日使節紀行』を指します。ただ、モンタヌスさんは一度も日本に来たことがないらしい。見てないのに書くという。とても良いですね。

国立国会図書館デジタルコレクションにリンクしています。
(大阪はコマ番号80から。大阪にあるという鬼神の殿堂などの挿絵に注目!)


1920年代の大阪、あるいは「大大阪」に関する本

ブックトークで紹介したように、シナリオ作る際に「とにかくざっと1920年代の大阪の出来事を把握したい」という場合、

の第9章を読めばOKだと思います。そりゃあアレもないコレももっと詳しく知るべきだという話はあるでしょうけど…

北尾鐐之助『近代大阪』は、大阪中心部から近郊のあたりをレポートした本。仕事で昔の大阪のことを調べるときに、時々参照することもあります

『新修大阪市史』第6巻、第7巻には大正から昭和初期にかけての大阪に関する記述があります。シナリオ作りに使うにしては分厚すぎる本なので通して読むのは大変だと思います。経済とか、流行歌とか、辞書代わりに参照するのがいいかと思う。内容としてはほぼ決定版みたいなトコがあるので、詳しく知りたいならまずコレです。
ちなみに「新修」でない大阪市史もあります。そもそもこうした自治体の歴史をまとめる事業は大阪市が最初といわれるくらい。1914年に最初の「大阪市史」のシリーズが刊行され、1930年代に「明治大正大阪市史」がでる。そして1950年代に「昭和大阪市史」が誕生しています(このシリーズをネタにシナリオ作れるかも)。その後、1980年代から1990年代にかけて、今回紹介した「新修大阪市史」のシリーズが刊行されています。このあたりの経緯に興味のある方は大阪市立図書館ウェブサイトにある市史編纂所の「刊行物」のページから各解説をごらんください。

橋爪節也、橋爪紳也両先生の著作は、大大阪を知る上では避けて通れないです。しかもお二人とも著作が多い!というわけで、こちらは一覧にします。

他、大大阪の時代を写すものとしては、大阪市史料調査会が発行している「大阪市史史料」というシリーズから、『大大阪の面影』というものがあります。

『大大阪の面影』(大阪市史史料;第82輯),大阪市史料調査会,2015年当時のエッセイなどに描かれた大阪の様子を集めたものです。時代の空気感を読み取りたい時などに使えると思います。

その他・ファッション

当時の服装などの資料は、掘ればいろいろでてくるだろうなぁと思いながら、今回はあまり掘り下げていません(期待していた方ごめんなさい)。使えそうだなと思える本としては

あたりかなと思います。

宝飾品も注目かもしれません。『すぐわかる日本の装身具』は江戸時代から昭和初期までの時代を追った簪(かんざし)や指輪などについて図版付きで解説しています。クトゥルフ世界の不可思議な装飾品と当時の日本の装飾品を比べるシナリオも作れるかもと思います。

その他・軍隊

軍隊関連の図書としては、服装などのディティールでなく街の人々との関係などに着目した本として

という本があります。ちょっと難しい本ですが、読みこめば参考になるかと思います。大阪は陸軍第4師団があったころとから「軍都」との言われ方をしたり、ゴー・ストップ事件の舞台になったりしています。警察と軍隊の微妙な関係をシナリオに入れてもいいのではと思います。

「地域のなかの軍隊」のシリーズ他巻では様々な地域がとりあげられているので、興味のある方はどうぞ。

その他・伝承

民間伝承もシナリオフックに使えそうです。大阪なら

という本があります。たくさん載っているので、いろいろ参考にできると思います。ただ、参考文献が記載されていないので、この本から特定の伝承をさらに深く調べるというのはやりにくいかも。

その他・雑誌

『大大阪』という雑誌があります。大阪都市協会というところが発行していた雑誌で、1925年(周辺の農村部を編入した時期)に創刊され、戦中の1942年まで出版されていました。当時の都市問題についての論考が載っている雑誌で、後世になってこの雑誌に掲載された健康問題に関する記事を使った昭和初期の健康維持に関する研究などの論文かあります。

『上方』という雑誌もあります。上方郷土研究會というところが出版していました。大阪の郷土を研究する上では避けて通れない雑誌です。創刊は1931年。創刊者の南木芳太郎に関する展示を大阪歴史博物館が行ったことがあります。

1920年代の大阪って、整理しきれないくらい多くの情報があるのでシナリオのフックになるものはたくさんでてくると思います。

国会デジタルコレクションより

『郷土研究』第2輯で引用したのは「鄕土の食物調査研究」( 家事科研究部)という記事からです。上のリンクはちょうど該当のページに飛ぶようにしています。

その他、今回のブックトークにあたって色々フックになるものを探してみたら、東北では油田の調査報告が1920年代あたりに多くあることに気付きました。油田を探しに山へ入っていくのをきっかけにしたシナリオが作れるかもです。

あと、国会図書館が提供している電子展示会や本の万華鏡からもいろいろとヒントがえられると思います。

たとえば千里眼事件

「メーキャップ今昔」も


あと、大阪市社会部調査課の報告はこちら

ざっとこんな感じでしょうか。


また機会がありましたらもっと時間を割いてTRPG支援のなにかができたらいいなと思いますし、みなさんも地元の図書館をどんどん使っていただければと思います。

最後に

スペシャルサンクスを捧げたい方々がいます。
今回のような「シナリオ作成への支援」は私一人で思いついたアイデアではありません。ボードゲームサークルの方との出会いや、それを通じて知り合ったTRPG関係の方々、先輩司書とのアドバイスがなくてはできなかったものです。

特に不慣れなクトゥルフ神話TRPGについて、いろいろと教えて下さったGODO RPG様との対話が今回の企画に繋がっています。キャラエノというサービスを使ってクトゥルフのキャラクターを作る手引きをしていただきました。サークルでの活動をされているようですし、クトゥルフのシナリオを作成、販売もされているようです。

キャラエノというサイトはこちら。クトゥルフ神話TRPGのキャラクターを手軽に作れます。酒田シンジさんという方が作成されました。

余談ですが私がこのキャラエノで作ったキャラは正気度が35という、ちょっとコワモテの人に絡まれたら一発でアカンくなるのではというものでした。キャラエノ楽しいよ!

あと、あの中学生の子。当時は1年生なので、いまは3年生になっていると思います。TRPGやってるのかな?いつかまた会えたらいいなと思います。この記事はフォーラム前に仕込んでいるのですが、たぶんフォーラムで会えると思う。

また、勤務先で受けるレファレンスの数々は、今回のブックトークを作るにあたって重要なヒントを与えてくれました。司書の活動としては突飛に見えるかもですが、あくまでも日常業務で行っていることの線上にあることです。図書館司書であっても、『東成郡誌』などはレファレンスでもなければ手にする機会は(意識しなければ)ほとんどありません。資料を読み込むことで得られるものは本当に数多くあります。レファレンスはそのきっかけとして、とてもとてもありがたいです。