そよ風の町4

寝ていたことを不思議に思いながらみ、父さんに聞いた。


「父さんとスープを飲みながら話してただろう?それで、昔の話とかいろいろして父さんの話が長すぎたせいだな。いつの間にか、寝てたよ。さぁ、そろそろ帰ろうか。ハル。」


「…え?」


僕はそのあと花を追いかけて、風になった母さんと話したはずなのに…。


「どうした?何か変なことでも言ったか?」


父さんは、きょとんとした顔をして僕を見ている。僕、夢をみていたのかな。その方が理解しやすいかもしれない。あんなこと…あるわけない…。


「僕、ぼーっとしてて夢と現実とまざっちゃったみたい。でも、夢でも幸せな夢だったんだ…。」


涙がこぼれた。悲しくて涙が出たんじゃないけど、自分でも上手く言えない。


「どうしたんだ?悲しい夢でも?」


父さんがびっくりしたように、慌てて僕の顔を覗き込んだ。僕は片手で涙を拭うと、首を横に振り笑顔で答えた。


「悲しいんじゃないんだ。僕ね、母さんの夢を見たんだ。久しぶりに母さんの声を聞いたよ。」


父さんは「そうか」と一言だけつぶやくと優しく笑い、僕の額にキスをした。父さんは僕が小さい頃、怖い夢を見たり、不安に思うときには決まって話を全部聞いた後で、優しく笑ってキスをしてくれた。僕はいつも、それだけで気持ちが晴れた。父さんの魔法は、今も健在だ。


「帰ろう、ハル。家へ帰ってゆっくり休もう。今日はたくさん話し過ぎて、父さんも疲れちまった。」


「うん、帰ろう。」


僕たちは、母さんのお墓に向かって少しだけ祈り、丘を下る道を歩き出した。相変わらず、同じ風が吹いている。でもなぜか、今までよりも心地好く感じた。母さんの声を聞いたのは、きっと夢だったのだろうと思う。でも、その中で母さんは風になったと言っていたことは本当のような気がした。


「父さん、母さんは風になったんだね。」


「…ん?」


急に僕が言ったことに、父さんは少し頭を悩ませた後、「そうかもしれないな」と言って笑った。


「ありがとう、母さん」


何だか、そう言いたくて空を見上げ、つぶやいた。草や木がざわめくほどの風を感じた。それは、僕の言葉に返事をしているような、優しい囁きに聞こえた。
.

.

.

.

ーそよ風は歌う。

僕たちに優しく語りかけるように。

風はいつもこの町を優しく包み込み、僕たちを見守ってくれている。

共に生きている。


…母さんもきっと、その中にいる。




○●○END○●○

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