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頑固オヤジに愛くるしさを感じた日


「バカヤロウ!」

「ボケとんか!」

何かミスがあると直ぐに出る出る
グサッと刺さる言葉。

私は“口が悪い”人が苦手…というか
悪い言葉で怒られるのが辛い。

原因を振り返って反省よりも先に
“何でそこまで言われなきゃいけないの?”
“酷い!”という事がまさって顔に出るから
さらに怒られるパターン。
分かっていながらいつまでも学習できなかった。

幼少期、父に怒られる時はいつも
「バカヤロウ!」「ボケとんか!」
と、時々ゲンコツ。厳しい父が怖かった。

父の仕事は航海士。
彼は仕事の話を一切家ではしなかった。想像力の乏しい小さな私は、童謡にでる“う〜みにお船を浮かばせて〜♪”と陸から遠くに見える小さな船。“それ(船)に乗ってる人”と言うイメージだった。

高校生の時、家にかかってきた1本の電話。
皆で食卓を囲みだんらん中。
もぐもぐ口を動かしゴクッとした
母が「お待たせ…」と出ると
表情が変わり何やら慌てている。

「え?ええ?は、Helloーう?…」

help!とばかりに父にバトンを渡すと
父はペラペラと英語で話し出した。
腹巻と日本酒が似合う父の以外な一面に
私だけでなくその場にいた家族みんなが
口を開け“父ちゃんカッケー”と思ったに違いない。

社会人になると航海中の父から時々
画像付きのメールが届いた。

停泊中の船のスクリューに乗ったセイウチ?の写真やコバンザメ釣れたって話。台風が近付いて何日も海の上で碇泊している話、本物の海賊が存在することも父の話で知った。過酷で壮大だ。

お船の船長さんの本当の仕事を
ちょっと知った瞬間だった。

口の悪い父が怖かったけれど好きだった。
優しい時は優しい。何より末っ子の私には
姉や兄に比べ甘かった。

そんな父も定年退職して数年経つと
口調が柔らかくなり、いつの間にか
そんな言葉も聞かなくなった。

“歳をとって優しいおじいちゃんになった”
一般的によく言われることだ。
怖かった父も同じ現象になったんだろう。
その程度に考えた。


私の夫は口が悪い。
それこそカッとなると
「ボケとるな!」が出る。

父親に似た人を選ぶと言うが
言葉遣いだけは良く似ている。
きっと歳を重ねれば丸くなる
彼もきっとそうだろう。

そう思いながらも
グサッと刺さる言い方に
反発したくなる私。

流石にゲンコツは無いが、
キッと気持ちが顔に出れば
苦手な言葉が続く。

普段優しく頼もしい分
余計にあの言葉が引っかかるのだ。

普段と怒ってる時、
“どっちが本物?”

夫は毎日、作業着を泥だらけにして帰る。
時には顔や足に生傷を作って来る事も。

ある日、夫の手伝いで重い機械を一緒に
持ち上げ移動させる事があった。

デスクワーク一筋、
基本引きこもりの私は容量が悪い。

持ち方、力の入れ方、体の使い方
良く分からないまま掛け声と同時に持ち上げた。

“想像以上に重い”
“しかし落としてもダメだ”

少しの間だと無理をして耐えた。

すると夫から
「とめろ!おい!ボケ!」

いつもの嫌いな言葉と
停止の声が掛かった。

容量の悪い私への
お説教が始まると思った。

「無理はするな!怪我する!」
「身の危険を感じたら辞めろ!アホ!」

私が怪我をしない様、必死に訴えてきた。

もう一度がんばる。

運んでる途中も大声で
「おい!こっちじゃ!あほ!」

と嫌いな言葉付きではあるが
フォローのお陰で無事運び終えた。

「はぁ…助かった!ありがと!」
「運び方良かった!力持ちじゃな!」


運んでる間「あほ」「ボケ!」
の連チャンコンボだったもんだから
私の口は“への字”。

褒めてくれた事が嬉しくて
“への字”のまま
心の中で凄く喜んだ。


「ボケ!」

あの言葉の中には思いやりが
あることに気づいた。
父も夫も危険と隣り合わせな仕事
行動中は長々しく説明してる間に怪我をする。

「気をつけろ!」「危ないぞ!」
が進化して「ボケ!」となっただけで
本気で私の頭がボケてるって意味ではないんだ。

ただ、ただ、
言葉選びが下手くそな
頑固なオヤジ。

そう思ったらなんか
愛くるしさを感じた。

敵意ではなく
思いやりや愛情、
伝えたい想いが
強くなるほど
あの言葉になるのでは。

1つモヤけたものが消えて
スッキリとした。

…あの言葉の本当の意味。

説明してくれなきゃ
分からんよ…笑

そう思いながらも
気付けた自分にニヤり。

その後に受けた
「ボケとんか」に

「うっさいわ!ボケとんじゃ!」

と返答したら
大きな声でバカ笑いされた。

あァ、やっぱりそうか。
彼にとってあの言葉は
軽いジョーク位の言葉なんだ。

学べずキッと睨んで逆ギレを
繰り返した私。やっと学んだ。

お父さんゴメンね。
気付かず怒るあなたを
勝手に嫌いでいたよ。

愛情だったんだ。
とてつもなく下手くそな。
もう何年も聞かなくなった
…聞けないであろう父のあの言葉。

この前帰省した時にポツリと言ってた
「お前も母ちゃんらしくなったな」
が今更になって嬉しいものに感じた。

怒ってくれてありがとう。


相手が放つ言葉がそのままの意味とは限らない。
良い言葉に裏を感じるように、聞こえが悪い言葉の中に思いやりがある事もあるという事を知っていたい。言葉が足りず選び方が下手な愛くるしい人もいるんだ。気づけてよかった。相変わらずあの言葉は嫌いだが受け止め方を覚えた私はもう大丈夫だ。笑って返そうと思う。「うっさいわ!」


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