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ヒルドイドの不適切使用について薬剤師が思うこと

ことの発端はヒルドイドを美容目的の使用

以前より、医薬品である血行促進・皮膚保湿剤の「ヒルドイド」が、化粧品代わりに美容目的で使用されていることが問題となっていた。

そこで、このたび、2024年10月よりヒルドイドが保険適応外になることが、厚生労働省の指示で決定した。医薬品なのにもかかわらず、保険が効かなくなる。何たる悲報だろうか・・・。

本来は、肥厚性瘢痕やケロイドの治療・予防、乾燥肌、皮脂の分泌ができない方など皮膚のトラブルにお困りの赤ちゃんからお年寄りまで幅広い年齢層の方に使うことのできる医療用の医薬品。

ヒルドイドの4つの剤形

確かに、血流を促す作用もあって、なおかつ優れた保湿力で皮膚を保護してくれることから、お肌にはとても良い。しかし、これは医薬品であり、化粧品ではなく、「なんか良いって聞いたので私も使いたいです」という要望がすんなりとまかり通ってはならない。

ところが、現実は違った。

「ヒルドイド出しますよ」の背景

ヒルドイドを入手するルートは、大きく2つある。一つは、病院へ受診して医師に処方箋を出してもらうルート。もう一つは、零売といって処方箋を介さずに、保険を使わず薬局から購入するルート。

百歩譲って後者の零売ルートは目をつぶろう。なぜなら、我々の税金を使っていないから。本来であれば、不適切な零売を推進している金儲けに突っ走る倫理観の乏しい薬剤師についてはディスり倒したいところですが、今回は割愛する。

さて話を元に戻そう。前者の医師による処方箋発行ルートだ。これが諸悪の根源でで、患者に言われるがままに、ヒルドイドを処方してしまう医師が多いのである。

ここで言う医師は、地域でクリニックや診療所を営むいわゆる開業医を主に指す。医療といえどサービス業の一種であり、患者さんから選ばれなければ経営は難しくなる。

「かぜを引いたから薬が欲しい」と患者に言われたら、渋々ながら対処療法薬を出さざるを得ないことが多いだろう。診察時に「家で温かくして、水分摂って、寝てください」と対処療法薬なしで帰宅させられる医師は名医だ。間違いない。そんな名医が日本にたくさんいたら、医療費は今ほど膨らんでいないと僕は思う。素晴らしい倫理観と正義感だ。惚れる。

患者の中には、「何万円もする超高級クリームよりも、ヒルドイドの方が良い」と言い、医師に処方箋を出してもらうこともしばしばあるようだ。これが今回、厚生労働省がメスを入れるきっかけとなった背景である。

ヒルドイド問題の責任の所在はどこ?

では、医師だけが悪者なのか?というと決してそういうわけではない。物事はとても複雑だ。

医療はチームプレイ。「『ヒルドイド欲しい』って言ったら優しいお医者さんが出してくれた」と言い、処方箋を持って薬局に来る美意識高い系の女性。きっと都心部はもっと多いんだろなと想像する・・・。

それに対して何も指摘しない薬剤師もまた同罪だ。薬剤師の大切な職務の一つに、医薬品の適正使用がある。本当に必要な方に、正しい薬を、正しい用法・用量で、正しく使ってもらうことが大切。美容目的のヒルドイドと気づきながらも、そのまま薬を渡してしまったら、その役割を果たしていないことになるわけだし当然だ。自分自身も改めて反省している。

一昔ほど、医師は「お医者様」ではなくなったと感じているが、まだまだ地域には「お医者様」が多い。薬剤師の意見を聞いてくれないことは、未だなお存在しているのだ。薬剤師の力量不足や積極性のなさも関係しているとは思うが、それ以前に、医師と薬剤師の日常診療でのコミュニケーション不足は深刻だ。

そして、審査機能を果たしてない保険者(健康保険組合など)も責任の一端を担いでいると思う。日本は国民皆保険制度という世界でも優れた保険制度があり、医療サービスを受けるとその恩恵にあずかれる。その医療サービスが保険を適応するに相応しい行為かどうか審査するのが保険者の務めだ。高額な薬剤を使用した場合には目くじらを立てる一方で、薬価がそれほど高くない薬剤にはあまり目を光らせないのが実情なのではないだろうか。

さらに、インターネットやSNSが普及した現代では、ヒルドイドの処方数の増加に最も影響を与えているのではないかと思われるのが、インフルエンサーの存在だ。美容系インフルエンサーが「ヒルドイドが美容に良い」という投稿をInstagramやX(旧Twitter)であげているのを見たことがある。

また、白衣を着た医療資格もなさそうな一般人や看護師がヒルドイドの誤った知識を投稿してたり、美容クリニックの案件らしい投稿があったり…

これは・・・・どうしたらよいのやら。。。
なにより、まずは現場でしっかりしていくことが大切ですね。

これからのヒルドイドの動向予想

2024年10月1日から医療保険制度の見直しのため、ヒルドイドをはじめとした特許が切れた先発薬の窓口負担を増やすことになる。詳細はニュース等を参照して欲しい。

2024年9月末までは、駆け込み需要でヒルドイドの消費が増える可能性が高い。しかし、10月以降は「ヒルドイド(先発品)」から「ヘパリン類似物質(後発品:ジェネリック)」に処方の傾向が移り変わり、先発品メーカーのマルホは大幅に売上が落ちるんじゃないかと予想する。

国による極端な薬価下げもしかり、こうやって製薬企業は収益が減って、薬をつくる力を失っていく。これはホント良くない風潮。

製薬企業は儲かるビジネスモデルじゃないと、新しい医薬品開発に力を入れられないし、既存の医薬品の製造・供給ができなくなる。医療現場の❝武器❞が乏しくなり、結果的に患者さんが困ることになるのだ。

マルホから注意喚起が出ているので貼っておきますね。
【ヒルドイドの適正使用のお願い】
https://www.maruho.co.jp/medical/pdf/news/hirudoid_proper_use.pdf

さいごに

医療現場の武器を減らさせないためにも、一つ一つの薬の適正使用に注力することが大切。改めて薬のゲートキーパーである薬剤師の果たすべき役割は、大きいと考えさせられた問題だ。

そして、一人の薬剤師の意見としては、塗り薬や貼り薬はたとえ後発品と言っても、有効成分以外の基剤はちがうし、塗り心地や貼り心地といった使用感がまるで異なることから別物と思っている。事実、自分で試してもちがうって思うし、患者さんの声も複数ある。

先発メーカーが同じ生産ラインで製造しているオーソライズド・ジェネリックであれば良いんですけどね。

今回のヒルドイドの自己負担増加による被害者は、先発メーカーのマルホとヒルドイドを本当に必要としている皮膚疾患で困ってる患者さん。

美容目的で保険使っちゃダメ。ゼッタイ。


おまけですが、この度、薬剤師向けの月刊雑誌「薬局」で執筆させていただいたのでご紹介⇓⇓


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