オキナワンロックドリフターvol.107

最終日は慌ただしかった。早々とチェックアウトし、バスの中で熟睡。
それでもまだ眠いようでこんこんと帰りのスカイマークエアラインで眠りについた。
帰ってきた私を見て、祖母が放った第一声は「なんであんたそぎゃん太ったと!」だった。
私は新しくできたお弁当屋さんのお弁当が美味しくてと、目をそらしながら言い訳し、祖母の矢のような叱咤をかわした。
本当のことを言えるわけないじゃないか。
私は、15日の夜の俊雄さんの濁った瞳がフラッシュバックし、指の間の火傷の跡がやたら疼き、赤くなるまでかきむしった。
3月26日。私はオリエンテーションと入学式のリハーサルのために大学へ行った。一人では不安なのを察してくれた母方の叔母である史佳叔母が付き添ってくれた。
リハーサルまで時間があったので、私たちはバスターミナル近くの喫茶店で朝食をとった。
喫茶店の人気メニューであるハニートーストを食べながら史佳叔母はいたずらっぽく尋ねた。
「ミキ、沖縄でなんかあったとでしょ?」
史佳叔母は、ヒステリックな亡き母に比べ、よく言えばおおらか、悪く言えばがさつな人である。そして、享楽的なようで人心掌握術に長け、いろんな人たちとの交流も多い。そんな史佳叔母に嘘をついてもばれるなと思い、私は小声でいきさつを洗いざらい話した。
「だろうと思った。あんたはストレスだらけになると食べ物に逃げるから沖縄でなんかトラブルがあったと思ったもん。もしかして、原因は城間兄弟?」
私がちょこちょこ沖縄に通っていることで私が沖縄ロックにはまっていることは家族の大半が既に知っていた。そういえば、正男さんが3度目の不祥事を起こした時は、新聞で知ったのだろう、わざわざ私に心配のメールをくれたのも史佳叔母だった。
叔母は私を責めるどころか「大変だったね」と労ってくれた。驚いていると、叔母はケタケタ笑いながら「基本的に自分のことで精一杯で人に無関心なあんたがそこまで気にかける人たちだから悪か人じゃなかろも?それに無理に引き剥がしたらあんたは余計に熱くなるけん」
いろいろあるものの、城間兄弟は私の視点では根っからの悪人ではないし、親切な人たちである。
私は黙って頷いた。
「大丈夫。ママ(私たちは祖母をそう呼んでいる)には黙っておくけんね。とにかく、来月から大学生だけん、はっちゃけるのはほどほどせな」と釘をさされた。
私は小さく「はい」と返した。
大学の坂道を歩くと、桜がちらほら咲いていた。
春なのだなとしみじみ思った。
私より9歳年下の同級生たちとこれから大学生活を送るのだと思うと、新鮮さよりも不安ばかりが募った。
リハーサルは無難に終わった。4月からは大学1年だ。
私はその間に、大学側から提出するように言われた課題を仕上げたり、シラバスや時間割を何度も見直しながらどの科目をとるかあれこれ考えた。
そして、入学式。
沖縄での暴食がたたり、きつくなったスーツに袖を通して、再び大学への坂道を上った。
入学式の後に、必修科目である英語のテストと面談があるということで付き添ってくれた史佳叔母と祖母に礼と別れを言い、私は担当教授の指示に従い、指定の教室に移動した。
テストはペーパーではなくe-ラーニングだった。
なぜか、脳内で昔懐かし、『アメリカ横断ウルトラクイズ』の機内ペーパーテストのテーマ曲が流れ、私は追われるような思いでテストに挑んだ。
続いては、英語での面談である。
アーリントン教授、ベルガー教授、そして非常勤講師のウォーターズ先生というサンタクロースを思わせる風貌の方が面談をし、私はアーリントン教授との面談だった。毒舌であるものの、アーリントン教授は日本のドラマがお好きらしく、特にオレンジデイズについて熱く語られていた。
アーリントン教授に趣味を尋ねられたので私は60年代70年代の洋楽が好きでそればかり聴いていると答えた。
「好きなバンドは?」
Uriah Heep、The Who、Queen、Deep Purple、Velvet Underground等有り体に答えたところ、アーリントン教授から「なんでアンタそんなバンド知ってるの?」と日本語で返された。
たまに詰まったものの、久しぶりの英語での対話にしてはよく話せた。結果は一週間後らしい。私は果たして特進クラスに入れるのだろうか。
そして、新入生歓迎キャンプに参加するも、高校時代の嫌な記憶が甦り、焦りと不安から鼻血を出して寝込んでしまったり、バイトを探そうにもなかなか見つからずますます不安が過ったりと一週間は目まぐるしく過ぎた。
そして、英語のクラス分けが発表された。
私は特進クラス、成績は第4位という、長いブランクにしては上出来だったので肩の荷がおりた気がした。
しかし、いざ授業に入ると最初はなかなか追いつけずにかなり悩み、半泣きになりながら勉強し、ようやく追い付けるといった一年次の前期過程を送るのだが、それはまた別の話。

(オキナワンロックドリフターvol.108へ続く……)
(文責・コサイミキ)

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