ホテルジューシーを読んでみたんだ


坂木司さんの「ホテルジューシー」を購入。へー!坂木さんが沖縄を題材にした小説を出されたのかとわくわくしながら読みました。
坂木司さんは引きこもり探偵シリーズや和菓子のアンが好きでよく読んでいる作家さんなのですが、ホテルジューシー?劇場版ホテルハイビスカスみたいなノリのコメディ色の強いものかなとページを進めました。
内容はミステリー色控え目な和菓子のアンといった印象。
しかし、主人公・柿生浩美(ヒロ)の、良く言えば正義感が強い、悪く言えば何様なんだよこいつなオラオラ系お節介焼きなキャラクターが鼻につき、苦手な人はとことん苦手かもしれません。
私は読んでいる最中で、てめえの正義感で人をジャッジしていた嫌いなクラスメートの顔が浮かび、はしたなくもヒロを殴りたい衝動にかられました。
しかし、そんなヒロの一方通行な正義感を溶かしていくホテルジューシーの不思議なスタッフたちが魅力的に描かれていて、ざらついた気持ちを解きほぐしてくれます。

料理担当の気さくな比嘉さん、掃除担当でコメディリリーフ的存在な双子のオバァ、クメさんとセンさん(ネ、ネーミングが……。二人合わせて久米仙……(笑))、そして、悪趣味なアロハに身を包む、昼間はぐうたら、夜は飄々としながらも四角四面なヒロに概念に囚われないアドバイスをする不思議な魅力のあるオーナー代理の安城さん。

もし、ホテルジューシーが実在するなら(ちなみにモデルとなった宿は今はなき新金一旅館だそうです)、那覇の常宿にしたくなります。

泊まる客も色々とバックグラウンドを抱えています。
阪神大震災で家族を失って心の傷を負い、ギャルなメイクでそれを隠しながら結婚と出産に固執する少女、詐欺すれすれの商売をして稼いでいる骨董屋、移動式養蜂を営んでいたものの、蜜蜂の全滅により生き甲斐をなくして酒に溺れる老人、旅の武勇伝集めをステータスと履き違えてはっちゃけた挙げ句に取り返しのつかないことになった学生、夢を抱いて沖縄移住したものの商売に失敗して借金を抱えた女性、相思相愛ながらも、周囲に理解されず密やかに暮らすワーカホリックの妻と働くことが辛くて主夫となった夫という中年夫婦。

固定観念に囚われたヒロはそんな彼ら彼女らに要らぬお節介をしてしまいます。
中にはそれが効を成すこともありますが、半分以上は、安城さんではありませんが「正しさは尺度にならない」と言いたくなります。
しかし。同時に私自身もまたヒロのことは言えないくらい多面的に物事を見られないよなあと思い返して情けなくなるのです。
個人的には主人公を変えて、ヒロとは違うキャラクターの旅人を主人公にした続編が読みたい作品です。(※追記・2022年2月に続編である『楽園ジューシー』が刊行されました。後日、レビューをupいたします。)
それに、沖縄の食堂や弁当屋で何度か食べているはずなのに、おにポー、タコライス、チャンポンが無性に食べたくなってしまい困る作品です。

で、結局。読み終わった後に行き着けの沖縄料理屋「ぬちぐすい」でランチを頼むのですが、それはまた別の話。

そして、安城さんの容姿や出で立ち、佇まいに既視感を覚えました。
そう、今はもう会えない人の姿を思い出したのです。
誰かって?言うだけ野暮なもんです。

(文責・コサイミキ)

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