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自作小説

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noteで書いている小説。主に、コンテストや企画への参加用です。
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2023年5月の記事一覧

勇気と無謀の違いは神様も教えてくれなかった (5)

 ミレイユを助けたい、という決意を固めた僕だったが、彼女の素性も、住んでいる所さえもわからない。  縁があるのなら、神がきっと何か機会を与えてくださるはずだ。  そう信じて、僕はひとまず通常の仕事に励んだ。  免罪符はあいかわらず一枚も売れなかった。しかし、スペクロで布教を始めてから十日目に、変化が見え始めた。 「先日は本当にありがとうございました。助かりました」 「これ、お礼です。……よろしければ……」  野菜や果物、焼き菓子などを手にした町人が、ぽつりぽつりと訪ねて

勇気と無謀の違いは神様も教えてくれなかった (4)

 カロリック管区に入って、最初にたどり着いたのはスペクロという町だ。この町は、東西に走る塩街道と南北に走る真鯖街道が交差する位置にあるので、人や物の往来が多く、栄えているようだ。  町の中央部にある教会――正確には、教会の廃墟――には、十人ほどの人たちが集まっていた。  僕はいつものように法術を発動させ、守護天使バクティを具現化した。集まった町人の病や怪我を癒した。  「おおっ」という人々の感嘆の声。感謝いっぱいの表情。しかし時間が経つにつれ、数人がそわそわし始める。「用事

勇気と無謀の違いは神様も教えてくれなかった (3)

 翌日、僕は晴れやかな心持ちで、ふだんの仕事に励んでいた。  仕事というのは、町の人々にかたっぱしから声をかけ、教会に来るよう誘うことだ。 「病気で苦しんでいる方はいらっしゃいませんか? お昼過ぎに、教会へ来てください。神の御業で、どんな難しい病でもたちどころに治りますよ」  午前中にそうやって人々を誘い、午後は教会で、集まった人々に〈癒し〉を行う。(そして、ヨハヌカン先輩が免罪符を売る)。それが僕らの毎日の仕事だった。  僕は家々を一軒ずつ訪ね、また、すれ違う町人に

勇気と無謀の違いは神様も教えてくれなかった (2)

 ガンツ・ゴーダムは、十数年前に、どこからともなくこの地に流れてきた商人だそうだ。〈蛇印〉の薬を販売していて、中でも主力製品は〈土の恵み〉という液剤だ。この地域では、〈土の恵み〉を畑にまかなければ、作物が実らない。農家はみんな、とてつもなく高価なその薬を買うため、ゴーダムに借金を重ねている。  あっという間に大金持ちになったゴーダムは、地方総督や貴族、大商人などの有力者とのつながりを深め、押しも押されぬ権力者となった。  住んでいるのも、宮殿のように立派な屋敷だ。大勢の屈強

勇気と無謀の違いは神様も教えてくれなかった (1)

第1章 新たなる旅立ち  はがれ落ちて垂れ下がる天井板。朽ち果てた祭壇。  廃墟といってもいい教会の真ん中で、僕は聖句を唱え終えて水の印を結んだ。 「……第六の円弧開放。具現化。出でよ、守護天使 バクティ!」  開放された内なる円弧からあふれ出す法力。四方の壁を境界として、僕の法術が発動する。  そのとたん、僕を取り囲んだ町人たちの口から、おおっ、という感嘆の声がいっせいに湧き起こった。  埃だらけの礼拝堂が、うっそうと木々の生い茂る森の中の光景に変わる。ひんやりと

自作紹介兼もくじ ~小説『勇気と無謀の違いは神様も教えてくれなかった』

あらすじ “魂にこびりついた穢れを払い、地獄落ちを逃れるには、高額な「免罪符」を買うしかない――” ドヴァラス正教の「使徒」の使命は、免罪符を売って人々の魂を救済することだった。しかしいつの間にか、それは出世の道具となり、使徒たちは免罪符の売上額ばかりを競うようになっていた。 そんな現状に納得できない使徒・シグルドは、不祥事がもとで、教団一のトラブルメーカーであるロランとペアを組まされる羽目になる。誠実さが暴走する猪突猛進型のシグルドと、ひねくれ者のロランとは、初めからま