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空亡都市0302

その川辺はそこだけ堤防沿いに道がなかった
川の堤防が一段低く親水地域として設計されているのだ
もちろん川から離れた場所には立派な堤防があるのだが
その地域だけ堤防は無いに等しいくらい低く
あらゆる場所からなだらかな階段で河原に降りることができ
小さな水路も張り巡らされている

親水公園には小さな子たちが
はしゃぎまわる姿が見られるのだが
何か落ち着かない風景な気がする

そうだ、緑が無いのだ

親水公園内には少し古いマンションがあり
私は以前訪れたそのマンションの最上階12階の部屋に用があった

エレベーターで上り鍵のかかってない部屋に入らせてもらい
訪問先の住人を探すのだが居ないようだ
生活臭の漂う畳敷の部屋には布団や脱ぎ散らかしたパジャマなどが散乱していた

もしやとその階にある洗濯室に向かった
洗濯室にはガス式の大きな乾燥機が5台ほどと
大型ドラム式洗濯機が10台ほどあった

ゴーンと機械の音がしているが住人は居ないようだ

隣の部屋から何やら音がする
ガシャンガシャンと金属プレスの音が鳴っている
丸い鉄板を何かのアニメのキャラクターのような形に凹凸をつけて加工している
機械が勝手に働いていた

脇の電気コンロでインスタントラーメンを作っている男性に声をかけた
「1212号室の南さんはいますか?」
「ああ、わかんないけど散髪に行くとか言ってたっけ?」
「南端にある散髪屋に行ってみな」

そう言われた

確かに散髪屋がマンションの12階にあったのだが
客はいないようだ

帰ろうとエレベータールームを探したのだが何故か見つからない

仕方なく階段で屋上に出ると目を疑った
マンションの屋上の境がなく平野が広がっていて
町工場のような工場が一帯に点在しているのだ

近くに線路があった
あれは10路線くらいあるのだろうか?
軽い汽笛を鳴らしながらオレンジのディーゼル機関車が客車と貨物車ごちゃまぜに牽引していた

とにかくこの町は舗装されていない
でこぼこの土のままの道が四方八方に広がっている

列車が停車したあたりに駅があるようだ

乾いたでこぼこの土の上をよろよろしながら歩いた

駅には

『空亡都市0302』

と書かれていた


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