見越し入道
時系列順に話すとなるとどう繋げていけばいいか分からなくなりそうなので、ふと思い出したことから話していこうと思う。
これは多分もう三年ほど前のことだろうか。
コロナ禍で飲みに行くのが制限され始めた頃だったと思う。
その頃はまだ外で話すくらいは大丈夫か、という感じだったので近くの公園で友人と会っていた日のことである。
そこの公園は0時になると街灯が全部消えてしまう。
いつもなら平気なのだが、その日は街灯が消えた瞬間にどうもなんともいえない恐ろしさが襲ってきて、ほぼ同時にお互い立ち上がってしまった。
な、なんか今日はおかしいな…などと話しながらもう帰ろうか、というところでそのまま直で帰宅するにはどうもどの道も怖い気がする。
それならドライブがてら少し遠回りをして明るい道を通って帰ろうか、ということになった。
(因みに私が運転手だ。)
ただ、どんなに明るい道を走らせても怖さが消えない。そうしてどんどん進んで行く内にとうとう南部まで来てしまった。
友人曰く、どうやら私は放っておくと危ない道へ危ない道へと進んでしまうらしく、その日もこのまま行くと岬の方まで出てしまう、ホントそれは怖すぎるからこっから曲がろう、ということになったのだが、どういう訳か上手く戻れない。
なんてことを繰り返しながらやっと道を下り、地元に向けて進み始めた。
と、その時である。
前方に時速15km程で走っているパトカーがいるのである。
面倒臭いなあ、ちょっとそこ曲がって大通り出ていい?なんて話しながら進んだ時である。
曲がってみるとすぐそこに潮平小があり、まあここそのまま行けば道戻れるかな、なんて進んでいくと何故か一瞬でタイムスリップしたような砂利の道に出てしまったのである。
多分側にあるガードレールの様子から川が流れているんだろうというような道だったのだが、急に昔の道に出てしまったような感覚になった。
街頭一つ無く、目の前には何処まで続いているかも分からない位の真っ直ぐな道が伸びている。
ふと思い出しながら気付いたのだが、周りは真っ暗で車のライトしか明かりは無いはずなのに真っ直ぐ伸びる道は確かに遠くまではっきり見えていた。
今思えばそこからしておかしかったのかもしれない。
と、その時である。
目の前に大きな大きな入道が立っているように見えた。
丁度足が神社の鳥居のように道の両脇に立ち、車を跨いでいるように思えたのである。
その瞬間私は何故かここをそのまま進んでしまえば戻れなくなってしまうような気持ちになり、瞬間的にパニックになってしまった。
これ以上進めない、かといってUターンできる場所も見当たらない上にバックミラーすら怖くて見れない、停めるのも怖い、と友人に伝えると友人がここにスペースが!ここでUターンして!と言ってきたのですぐさまハンドルを切り逆方向へ戻ることが出来た。
そこからお互い無言で必死に車を走らせようやく小禄に出たところで一息ついた。
そこでお互いにふと気付いたことがある。
私たちはお互い喫煙者であり、車の中でもいつもなら結構な頻度で喫煙する。
それがその日は最初の公園からここに来るまで一本も吸わず、窓を一度も開けていないことに気付いたのだ。
どうやら私たちはずっと緊張状態でここまで来たらしいことにその時やっと気付いたのである。
なあんだそんなこと、と思うかもしれないが、これはいつもなら絶対に有り得ない事なのである。
そこでやっと今日はもしかしてずっと何かおかしかったかもしれない、となったわけである。
帰宅後何か起きたとかそういうことは全くない。
何か見たとか、分かりやすく恐怖体験をした訳でもない。
ただただ想像として入道がそこにいるような、
そんな気がしただけであるし、なんなら根拠の無い恐怖だけがあった、それだけの話である。
その後、もしかしたらその付近はそういうスポットなのか南部出身の方に聞いてみても一切そういう噂は無く、入道に纏わる昔話がもしやあるかもしれぬと探してみても何も収穫は無かった。
未だに全てが謎の、ある夏の日の話である。
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