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「お箸何膳いりますか?」と聞きながら二膳のお箸に手にかける店員さんを見て、全然一膳でいいのに「二膳で!」と元気に答えてしまう人に送る賛歌
ということがありました。
夕飯時、その日は少し遅めに昼ご飯を食べたため、そんなにお腹は空いていなかった。
しかしまあ、あんまり少ないと夜中にお腹が空くことだろうな、と考え、少し多めにたこ焼きを買って帰ろうとした。
普段が6個のところを12個を注文したのである。
夜ご飯と考えると少し少なく、一人の持ち帰りの量としては少し多いのかもしれない。私はこれをもちろん一人で食べるつもりで注文した。
「マヨネーズ、鰹節、青のりすべておかけしてよろしいですか?」というお決まりの質問にも「お願いします!」と意気揚々と答え、小銭を探っていた時だ。
「お箸は何膳必要でしょうか?」
と、これまたお決まりの質問が飛んできたのである。
財布から顔を上げると、店員さんがお箸を二膳握りしめながら私の返答を待っていた。
何度も言うが私はこのたこ焼きを一人で食べるつもりであった。必要なお箸は一膳。答えるべきは「一膳で!」というただ一言である。
しかし瞬間、頭に駆け巡ったのは、これだけのたこ焼きを帰って一人で食べるのだということが露呈することの恥ずかしさと、善意で二膳用意してくれようとした店員さんの気持ちを無下にしてしまうのではないかという焦りと、「割りばしなんてなんぼあってもいいですからね」という内なるミルクボーイ内海である。
気づいた時には「二膳で!」と答えていた。
小銭はちょうど払えたし、たこ焼きは帰ってすぐに一人でぺろりと平らげてしまった。
こういうことが度々ある。
私はコンビニなどでも「お箸は二膳でよろしかったですか?」と聞かれると、「はい、お願いします!」と答えてしまう。
これと同種の行いとして、「全然前にも聞いたことのある話なのだけれど、相手がすでに話始めてしまったので、初めて聞きましたという顔で会話に参加する」というのがある。
ある程度気心が知れた仲であれば、「あ、それ前にも言ってたなあ」と一言添えることができるのだけれど、そこまでの仲じゃなかったり、仕事関係の話だったりすると、それができなくなる。
それはなんというか、せっかく良い感じに話をしてくれているのにその興が削がれるのではないか、というほんの少しの気遣いと、「それ前にも聞きましたよ」「え?ああ、そう?」というやりとりの後に残る少しの気まずさを孕んだ時間が面倒くさいという、なんとも嫌な理由からである。
なのでそんな時は、もう一度その話を聞きながら、過去に聞いた話をなぞって自分の記憶の答え合わせをしていく。
これ、聞き役が私だけの時は、私が初耳の顔をしていればいいだけなので、困ることはないのだが、問題は、途中に第三者が「いや、それ前にも話してたじゃないですか」と乱入してくることだ。
そうすると、場の空気は一気に不穏になる。
話し手が「あ、そうやっけ?」と流してくれればいいのだが、「ええ~じゃあ聞いたことあるって言ってよ~」とこちらに矛が向くことにもなりかねないからである。
まあ「それ前に聞きましたよ」と言えない私が悪いのだけれど、「えっ?私が悪いのか?」という気持ちにも少しなってくる。
別に誰かが悪いというほどのことでももちろんないのだけれど、それにしては何とも気まずい瞬間ではないか。
世の中には、こういう対して悩む必要のない場面で、はっきり「前にも聞いたよ!」と嫌味なく話を切ったり、「一膳で!」と必要な分だけのお箸を所望することができる人たちがいる。
私はちょっぴりそんな人たちに憧れる。
きっとそうはなれないし、積極的に、なりたいかと言われると、別にそこまではなりたくないのだけれど。
けれど、同じような気まずさや居心地の悪さを感じたことのある人たちと、肩を組んで分かち合いたい時がある。
今日はなんだかそんな夜なのである。
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