ルッキズムを解剖する ~SNSが生み出した外見格差社会~

 ルッキズム(外見至上主義)は近年になって盛んに問題視されるようになってきた考え方です。人間の外見に関する話題はセンシティブであり、公の場ではほぼ言及されることがありません。今回はこの話題に切り込み、ルッキズムの正体を明らかにします。

1. ルッキズムを巡る状況について

お見合いパーティー参加者意識調査、株式会社IBJ(2013)

 上記は2013年に婚活サービスを運営する会社がお見合いパーティに参加した男女を対象に取得したアンケート結果です。男女ともに人柄が最も重視されており、次点は男性の場合が容姿、女性の場合が価値観です。

結婚相手に求めるもの、株式会社Parasol(2022)

 上記は別の婚活サービス運営会社が2022年に実施した調査です。特筆すべきなのは、男女ともに重視する項目として容姿(見た目)が1位になっている点です。過去10年ほどで結婚相手に容姿を求める人間の割合が増加しています。

 この10年で何が起きたのでしょう。

2. SNSが加速させたルッキズム

 2013年から急激に流行り、今では社会にとってなくてはならないほど普及したものがあります。それはSNSです。

SNS利用動向に関する調査、ICT総研(2017)
SNS利用動向に関する調査、ICT総研(2022)
SNS利用動向に関する調査、ICT総研(2017)
SNS利用動向に関する調査、ICT総研(2022)

 SNSの利用者は右肩上がりに増えており、その中でもYoutube、Instagram、TikTokの上昇率が著しいです。これらのSNSには、コミュニケーションに画像(映像)を用いるという共通点があります。以降は便宜上、3つをまとめて「画像系SNS」と呼称します。

 また、ルッキズムの拡大を示す具体的な指標として、美容整形の件数を挙げることができます。

最新美容整形事情、東京イセアクリニック(2020)

 ある美容クリニックが公表したデータでは、2015~2020年の6年間で美容整形の利用者が6.7倍に増加していることが明らかになっています。自身の外見を気にし、美容整形にまで踏み出す人たちの数が凄まじい勢いで増えているのです。

 更に、画像系SNSの台頭とルッキズムの関連性を示唆した研究もあります。米国ジョンズ・ホプキンス大学が2018年に実施した調査では、以下のように考察されています。

The findings suggest that the following factors were associated with increased acceptance of cosmetic surgery: use of YouTube, Tinder, Snapchat, and/or Snapchat filters;

Youtube、Tinder、Snapchatやそのフィルターの使用が、美容整形の敷居を下げることに繋がっていると示唆している。

Association Between the Use of Social Media and Photograph Editing Applications, Self-esteem, and Cosmetic Surgery Acceptance(2019)

Increased social media investment and the use of Instagram photo filters and/or VSCO photo editing applications were associated with increased consideration of cosmetic surgery.

SNSの利用増加やInstagramのフィルター、VSCOといった写真加工アプリの利用増加は、美容整形の増加と関連性があった。

Association Between the Use of Social Media and Photograph Editing Applications, Self-esteem, and Cosmetic Surgery Acceptance(2019)

 英語圏で実施された調査ですが、日本でも似たような事態が起きていると考えられます。画像系SNSがルッキズムを加速させ、人を評価する項目の中で容姿が中身を上回るという事態です。

3. ルッキズムの正体

 ルッキズムは公の場では批判の的となります。人間の評価は多面的かつ総合的であるべきで、特定の要素だけで他者を評価してはならないという社会道徳が、人々を批判に駆り立てるのです。ところが、生物学的にはルッキズムは理にかなっています。自然界に暮らす野生動物の中でも、繁殖相手選びの過程で外見を重視する種が多数が存在することは周知のとおりです。

 シカのオスは、立派なツノを持っている個体がモテることが分かっています。メスはツノを見てオスの強さや健康さを判断しているからです。[1]

 クジャク(インドクジャク)は、長く鮮やかな羽を持っているオスがモテるとされます。自然界で派手な羽は不利だが、それを抱えながらも生き延びてきたオスには高い生存能力がある、メスがそう判断するからです。[2]

 人間は外部から得る情報のうち、8割強を視覚に依存していると言われています。人間がルッキズムに陥るのは至極当然であり、視覚を発達された生物の宿命です。したがって、ルッキズムを思想や嗜好のように扱うのは適切ではないでしょう。マッチングアプリで異性の選択肢が広がったことにより、外見の重要度が増したのは事実ですが、根底を辿れば生物学的な要因に行き着きます。

 ルッキズムを克服するということは、理性で本能を押さえつけることに他なりません。そのような人間の在り方が果たして正しいのか、我々は考えなければならないでしょう。

4. 出典

[1]「いのちの博物館だより」、麻布大学いのちの博物館、2018

[2]「鳥たちにも「流行」がある!? つがい相手選びと性選択」、国立科学博物館、2008


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