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経験は宝、今も実践していること

私は看護師として長年終末期に携わってきました。配属された最初の病棟がオールマイティな病棟でその中に終末期も含まれていたのです。

1年目から毎日毎日患者さんが亡くなっていくのは相当堪えました。
新人で、まだ仕事も不慣れ。
それなのに抗がん剤治療や放射線治療、
それに耐える患者さんに一体何が出来るのか。
かといえば、ガン患者さんの横に子供が入院していたり、その隣に骨折した患者さんが居たり。

とにかく、一体何科なの?
いつもそう思って仕事していたと思います。
同期とつけたあだ名は『なんでも来い科』でした。

その中でも貴重な経験をしました。

1人の高齢患者さんがビニールシートに包まれて入院してきました。
汚物まみれで、四肢も拘縮して。
皆さんも寒い時に手足を丸めて眠りませんか?
そういう体勢でした。
もちろん、もう手足が伸びることもなくオムツを巻くのも一苦労。HICUへ入ることになりました。
点滴、心電図モニター、酸素マスク、自動血圧計のマンシェット(腕に巻くやつ)、バルーン(おしっこの管)、SpO2(指につけて酸素測るもの)
ありとあらゆる機械がつけられていました。

新人だった私は、心の中で思ってはいけないことを思いました。この人は幸せなのだろうか?と。

入院してから一言も発せず、新人だった私は先輩と身体を拭きに行ったり点滴の速度を見に行ったり。一度一緒に訪問したら次からは1人でした。

看護師として、学生と社会人としての
まだ理想と現実を目の当たりにする前でしたから、毎度毎度声をかけていました。
それに加えて、タッチングという“人に触れる”
行為も実施していました。

『〇〇さんおはようございます』
『〇〇さん、お身体拭きますね』
『〇〇さん、今日はいいお天気ですよ』
肩を触る、手を握る、腕をさする。
いつもいつも、苦痛な表情で…そのたびに私はなんとも言えない気持ちになっていました。

初めて声を聞けたのは入院して3日後
いつものように点滴の確認に行った時でした。
肩を触り手を握ってから、
『〇〇さん、おはようございます。
点滴確認しますね』と立ち上がって後ろを向いた時に

『死にたい』

私は驚きました。初めての言葉が死にたい。
酸素マスクつけてたけれどハッキリ聞こえました。一瞬時が止まったような、そんな感覚だったと思います。

そりゃそうだよね…
看護師としてはいけないことですが。
それでも、私は何も言えないまま、
しばらく手を握ったまま過ごしました。

問題は記録です。
PCにSOAPで記録を書くんですけれど。
Sというのが患者さんの発言の欄になるのです。
そのまま書いたところ、当たり前ですが先輩たちからは質問の嵐でした。

きっと私が新人だったから言いやすかったのかもしれません。
ポロッと言葉が出ちゃったのかも。
その患者さんは目も見えなかったので、もう私が居ないと思ったのかもしれません。

結局亡くなる数日間、発した言葉は一言だけ。
日勤で病棟入りすると、朝方亡くなったとのこと。新人である私にとって
初めてのエンゼルケア(死後の処置)でした。

もう頭の中は処置のことでいっぱいいっぱい
鼓動が早まり、自分の心臓の音が聞こえていました。
でも、カーテンを開けたら音が止みました。

それは、なんとも幸せそうな顔で亡くなっていたからです。
生きていた時は、あんなに苦しそうで辛そうで悲しそうな表情だったのに。
この人の本当の顔はきっとこっちなんだなと。

また、言ってはいけない言葉を言いそうになりました。でもいけない!と言葉を詰まらせたら、、
『幸せそうな顔してるね。
〇〇(私)はいい経験をしたと思う。
きっと、声かけもタッチングも〇〇さん(患者さん)はわかってたんだと思う。
だから、〇〇(私)にだけ、気持ちを聞いて欲しかったのかもね』
20年以上経験のある主任が言ってくれました。

不覚にも涙を流してしまい

私をちゃんと見てくれていた人がいること。
思っていたことを分かってくれたこと。
看護師としても、そう思うことがあるんだということ。

あの患者さんにとって、何が幸せでどうすればよかったかなんて正解はありません。人の幸せは人それぞれであって、もちろん亡くなることが幸せとは思いません。
でも、自分にとっては大きな経験になりました。
人はいつか死ぬ。
ですが、どんな死に方なのかも重要だと思うんです。畳の上で亡くなることができたら幸せと思う人もいれば、病院のベッドの上がいいと言う人もいました。
生かされる人生も選べない人生も苦痛

ちなみに私は延命を希望しない派です。


仕事が慣れれば忘れていってしまうこともあります。仕事を効率化しようと、省いてしまうこともあるでしょう。

それでも、私は今でも、このコロナ禍でも、
手を握り、自分の温かさを与え、患者さんの肌の温もりを感じて仕事をしています。

これだけは、変わらずずっと実践していきたい私の看護だと思っています。

ありがとうございました。




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